農林物輸出「その他のその他」が品目1位のナゾ 安倍政権の悲願「1兆円目標」達成間近だが

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「何が農産物輸出額を押し上げたのだろうか」。素朴な疑問を調べようと、昨年夏に農産物の内訳を農水省に問い合わせた。同省の資料では概要だけが紹介されていて、細かい数字まで検証ができない。予想に反し、同省からは「問い合わせのデータは文書として存在しないので中身は教えられない」と断られた。一緒にこの調査を担当した日本農業新聞の若手記者は昨年10月に情報公開制度に基づいて開示請求をしたが、昨年12月になって同様の理由で、正式に情報開示を拒否された。

ところが重ねての要請に対し、今年3月になって、突然すべての内訳を明らかにしてきた。私見になるが農水省が一転して開示に切り替えた理由は、たぶん厚労省の毎月勤労統計調査問題が影響したからだろうとにらんでいる。厚労省が全数調査からサンプル調査に勝手に変更、一部で補正作業をせず、一連の不正を公表しなかったため、国会で厳しく追及された。同様に下手に隠し続けると、「ろくなことはない」という教訓を、農水省が学んだとしたら悪いことではない。

上位の内訳は農産物と呼べるのか?

得られたデータで農産物輸出に含まれる品目を金額の大きい順で並べてみると、奇妙な品目ばかりが上位にきた。

トップを飾ったのは「その他の調製食品のその他」(以下=「その他のその他」)で798億円。農産物輸出額全体の14%を占め、断トツの数字だ。この品目は前年に比べ231億円も増えている。同じ期間に増えた農産物全体の輸出額は695億円なので、実に3割が単品の「その他のその他」で賄われた。2位も「パン、ケーキなどのその他」。「清酒」を挟んだ4位が「ソース用の調製品などのその他」が食い込んだ。

この3品目だけで1300億円近くになる計算だ。農産物全体の23%を占める。農産物でトップにくる「リンゴ」(140億円)や、複数の関税番号を合算した「牛肉」(247億円)を凌駕する。

実は不思議なことに、政府自身が「その他」の中身をよく知らない。農水省、財務省、東京税関の担当窓口にしつこく「その他のその他」の中身を尋ねたが、いずれも「よくわからない」という返答だった。実際に貿易する大手商社や通関業界の団体に問い合わせても「その他のその他の関税番号に何がどの程度入っているかを知る術はない」という。

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