日本を圧倒する「フィンテック大国」中国の実像 アリババの本拠地・杭州はここまで進んでいる

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今回の中国出張では、中国政府の次世代AI発展計画を担っているアイフライテック社の副総裁と北京でミーティングを持ち、同社のAI事業について説明を受けました。音声認識AIにおいて中国トップ企業の同社は、アリババ、テンセント、バイドゥなどの音声認識技術を担っています。

ミーティング前の説明に使われていた映像ボードには、リアルタイムで中国全土から同社に集積されているビッグデータの件数が表示されており、その数はなんと1日で「47億件」を超えていました。本当に脅威に思いました。

アイフライテック社は中国の銀行のデジタル化やAI化にも大きく貢献しています。中国の銀行には、店舗フロアが無人化された近未来型店舗が増えてきています。そこでは、タッチパネルと音声認識AIアシスタントによる操作だけでさまざまな銀行取引が可能になっています。中国ではすでに地下鉄のチケット購入にも「ただ話しかけるだけ」の音声認識AIアシスタントが使われています。

キャッシュレスの先にある世界

2018年は、楽天ペイやLINEペイ、またソフトバンク・ヤフー連合によるペイペイなど、モバイルによる現金を使わない決済サービスが注目され、「キャッシュレス元年」とも言われました。ですが、キャッシュレスという潮流にも「この先」があるのです。そして、以上で記述したアリババパークの現在の様子が、それを端的に表しています。

アリババは、アリペイというキャッシュレスの手段とともにリアル店舗でも経済圏を拡大しています。支払いの部分がキャッシュレスであることが、ほかのサービスが拡大するうえで大きな武器になっているのです。それは、キャッシュレスがリアル店舗のデジタル化の入り口にもなっているからです。今後もアリババは、中国から、広義の中華圏、さらにはアジア諸国へと金融と小売事業を拡大させていくことが予想されます。

キャッシュレス化には3つの重要な潮流があります。

①キャッシュレス化
②無人化・自動化
③シェアリング化・サービス化

キャッシュレス化によって無人化・自動化が促進されています。また、キャッシュレス化によりシェアリング化・サービス化も促進されています。そもそもキャッシュレスを前提としない限りは、無人化・自動化は困難。そして自転車シェアリングや自動車シェアリングも、スマホでのキャッシュレス決済を大きな原動力として発展してきたのです。

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私は、キャッシュレス化によって実現する社会の自動化やサービスおよびシェアリング化がより重要であると思っています。

都心部においては渋滞や混雑の緩和、そして過疎地においては構造的な人手不足への対応となるのが、キャッシュレス化×自動化×サービスおよびシェアリング化なのです。だからこそ、私たちは中国の進化から目を背けるのではなく、きちんとそこに目を向け、対峙していくことが重要なのです。

もちろん日本においては、アリババパークで見たようなすべてを顔認証で済ませるような世界を望むべきなのかは大いに意見が分かれることでしょう。私自身も、「もう一度、このAIホテルに泊まりたいか」と聞かれたら、やはり普通にスタッフが応対してくれるホテルを望みます。

中国の監視社会についても大いに疑問に思っています。それでも、日本でもキャッシュレスが大きな話題となっているなかで、「キャッシュレスの先にあるもの」を見据えた展開、そして日本独自の価値観でそれを進めていくことが求められているのです。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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