LNG事業売却白紙で東芝「再建」につまずき LNG価格低迷で残る「最大1兆円」の損失リスク

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シェール革命や再生可能エネルギーの興隆により、原発は価格競争力を失い、STPはとん挫。WHは建設コスト超過で倒産し、東芝は海外原発から撤退した。2013年当時、高値で推移していたLNGのスポット価格も、世界各地でプロジェクトが立ち上がったことなどから大幅に下落してしまった。

フリーポートの設備利用は権利であり、義務でもある。仮に液化設備をまったく使わなくても、固定の契約料金を払い続ける必要がある。今後まったく販売できなければ、トータルで1兆円弱の損失となる懸念がある。フリーポートは2020年から設備利用が始まる予定だが、LNG事業の知見がない東芝は一部を除き、安定的な買い手を見つけることができなかった。スポット市場の相場は低迷しており、契約できていないLNGをスポット市場で売っても損が出る状況だった。

フリーポート売却は白紙の公算大

昨年4月に東芝に乗り込んできた三井住友銀行出身の車谷暢昭会長兼CEOは、こうしたリスクを避けるためにフリーポートの売却を決断。複数候補からENNを選定したのが昨秋のことだ。売却といっても、東芝が約930億円を支払って引き取ってもらう。「本業ではない事業で20年間もリスクを抱える。それは再出発に適切ではない」(車谷CEO)。2019年3月期に930億円の損失を計上することで、将来にわたるリスク遮断を優先する考えだった。

東芝は「契約は解除されておらず、話し合いを続ける」とするが、フリーポート売却は白紙となる公算が高まった。売却が消えれば、2019年3月期の損失計上はなくなり、一時的に純利益の上方修正も期待できるが、この先の損失リスクを抱えたままになる。東芝はフリーポート売却の方針を変えておらず、新たな売却候補を探す必要がある。ただ、昨年秋時点で一番条件の良い提案を出してきたのがENNだった。しかも、LNGのスポット価格は急落しており、当時より条件はさらに悪化している。

仮にフリーポートを売れないまま東芝が抱え続ける場合、LNGの製造開始の前年、つまり2020年3月期から会計処理が必要になってくる。過去、東芝はフリーポートについて「資源権益とは異なり、一括減損などは行わない」と説明しており、それが変わらないならば、毎年翌年分を評価した上で処理することとなる。2017年11月に平田政善CFOが「現状なら毎年100億円の損失」と説明していたが、LNGスポット価格の動向を考えるとこれより損失が大きくなる可能性が高い。いずれにしろ、損失リスクを抱え続けることになる。

2015年に発覚した不正会計や2017年の原子力事業の巨額損失により経営危機に瀕した東芝だったが、半導体メモリ事業子会社の売却や6000億円の第三者割当増資などにより危機を脱した。昨年11月には2023年度に営業利益率10%を目指す中期経営計画「Nextプラン」を発表、再生に向けスタートを切った。だが、今年2月には2019年3月期業績見通しを下方修正するなど、初っぱなからつまずいている。

エネルギー関連での追加費用などは一過性だが、2019年3月期の営業利益率予想は0%台。平田CFOは、「来期以降は一過性の費用は発生せず、のれん減損も想定していない」と2020年3月期以降について強気の姿勢を示していたが、フリーポートは古くて新しいリスクとして将来にのしかかる。

東芝の「負の遺産」はいつになったら片づくのか。経営再建へ波乱含みの船出となった。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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