「ポスト安倍に菅官房長官」説が急浮上したわけ 党内で増す「たたき上げ」政治家の存在感

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一躍、渦中の人となった菅氏は、今回の騒ぎにも「新元号発表に伴う一時的現象で、すぐに収まる」と苦笑しているとされる。ただ、安倍首相が当選同期の集まりで「次は岸田さん」と発言しているのに、岸田氏に派閥を引き継いだ古賀氏があえて「菅氏は総裁候補の1人」などと発言したことも含め、「菅後継説」は当分、永田町の話題の中心となりそうだ。

岸田氏周辺からも「古賀さんはもともと菅氏を評価していて、現在も親交が続いている。宏池会出身でもあり、念願の宏池会政権作りにはまず菅首相を、と考えている」(岸田派関係者)との声が漏れてくる。

一方、ポスト安倍を狙う石破氏陣営は警戒心を強めている。新元号決定で「きちんと説明すべきだ」と注文つけるなど、昨年の総裁選以降も反安倍の姿勢を一段と鮮明にしているのが石破氏だけに、「安倍政治の継承」を前提とした菅後継説を「石破つぶしの一環」(石破氏側近)と受け止めているからだ。確かに、安倍政権の中枢を担う有力議員の多くは「ポスト安倍が石破氏となることだけは阻止したい」(細田派幹部)のが本音とされる。

5月の訪米は国際舞台での顔見世?

6年半近く、内閣の大番頭として政権の危機管理を一手に担う菅氏だが、大型連休明けの5月9日からの訪米を検討中だ。「拉致問題担当相としてアメリカ側と協議するのが目的」(政府筋)とされるが、沖縄基地問題も担当しているだけに、河野太郎外相や茂木経済産業相と並んで今後の日米交渉のキーパーソンとなる可能性もある。留守を預かる立場の官房長官の外遊は「極めて異例」(官邸筋)なだけに、政府部内でも「安倍首相も菅後継を意識して、国際舞台での顔見世を演出したいのでは」(有力閣僚)との声も出ている。

官房長官の在任期間では歴代1位の記録を更新中の菅氏は「酒も飲めず、仕事が最優先の真面目人間」(本人)とされる。自民党内に世襲議員が跋扈(ばっこ)する中、「コネも縁故もない」(自民若手)のに政界の中枢にのし上った菅氏の座右の銘は「意志あれば道あり」だ。官房長官就任時にはアメリカの国務長官だったコリン・パウエル氏の著書『リーダーを目指す人の心得』を熟読したとされるだけに、「党内から『日本のために』と請われれば、拒否するはずはない」(自民長老)との見方も広がる。

ただ、古稀を超える年齢と官邸記者会見での女性記者との感情的なバトル、さらには、各省庁の幹部人事をめぐる霞が関官僚との軋轢など「マイナス材料も少なくない」(麻生派幹部)のも事実。このため、永田町では「安倍首相が突然退陣した場合の暫定的後継はありうるが、自ら総裁選に打って出て勝負するタイプではない」(自民長老)との声も少なくない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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