迷走する英国にEU首脳会議はどう対処するのか 英国「ノーディール」の危機、「残留」も茨の道
だが、仮にEUが主張する12カ月延期案が通った場合、英国が5月23~26日の欧州議会選挙に参加するか否かという問題が出てくる。強硬離脱派への配慮からメイ政権は欧州議会選挙への参加を拒んできたが、書簡では「事態を打開できなかった場合には、議会選挙の準備に責任を持つ」と参加やむなしの雰囲気をにじませている。
いずれ離脱すると分かっている加盟国を欧州議会選挙に参加させること自体、EUとしても容認しがたい面があろう。少なくとも欧州議会選挙後に行政府たる欧州委員会の執行部が一新される際、英国人の候補者が選ばれることはないであろうし、次期中期予算(2021~27年)の策定議論にも関与を認めるわけにはいかないだろう。そう考えると、コストと時間をかけて英国を欧州議会選挙に参加させるのは壮絶なムダ以外の何物でもない。何らかの規則修正によって参加させないことも一考に価しよう。
ただ、厄介なことは、交渉が延びるほど「再国民投票および残留」という選択肢も浮上してくる点だ。それがゆえに「参加させない」という決断も簡単ではない。実際、メイ英首相は6日、膠着状態がこれ以上長引けば、「離脱を成し遂げられないおそれが高まる」と警告し、強硬離脱派に支持を呼びかけている。
仮に残留を視野に入れるのであれば、欧州委員会や欧州議会に英国人がいないことや、中期予算の編成過程に英国の意思が反映されないことは問題になりかねない。そうした面倒な論点を検討しなくてもよいように「5月22日までに出て行ってほしい」のがEUの胸中なのである。
低下する英国の政治的パワー
仮に「残留」となったとしよう。しかし、その場合も、2016年6月以前のような姿で残ることは難しいだろう。英国はEUにおいていくつかの特権を有していた。たとえば英国だけがEU予算からの払戻金(いわゆるリベート)を受けるという特権があったし、そのほかにパスポートコントロールを解除するシェンゲン協定への不参加、新財政協定への署名拒否、銀行同盟への不参加など、多くの路線で独自色を押し出していた。
もちろん、短期的な経済効果を踏まえれば残留は離脱よりもポジティブとの試算は多く、それはおそらく事実なのだと思われる。しかし、残留しても以前のような政治・外交上の発言力が保持される保証はまったくないという点も留意しておきたいところだ。すでに一部の加盟国が「もうノーディールでもかまわない」と公言し始めている現状は、もはやEUにおける英国の政治的資源が払底しつつある証左である。「英国を見限り、先に進みたい」という思いはEUの政策当局者のみならず、おそらく市場参加者の本音でもあるのではないか。
※本記事は個人的見解であり、所属組織とは無関係です
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