迷走する英国にEU首脳会議はどう対処するのか 英国「ノーディール」の危機、「残留」も茨の道
どのような形にせよ、離脱期限の再延長を認めてもらうために英国政府は4月10日の臨時EU首脳会議に「英議会で承認した離脱協定案」を持ち込まねばならない。実態としては「遅くとも9日の午前」までにEUは回答を欲しているとの報道もある。10日の会議で決定しなければならないのならばそれでも遅すぎる。仲間割れをしているうちに時間は刻一刻と迫っている。
では臨時EU首脳会議で何が議論されるのだろうか。報道を見る限り、臨時首脳会議のテーブルに載ってきそうな案は、①ノーディール、②12カ月延期<EU案>、③6月30日まで延期<英国案>、そして、元々定めていた④協定案の可決を前提に(欧州議会選挙前日の)5月22日まで延期という4つの選択肢だ。
③は明らかにメイ政権が議会をまとめられずに持ち出してきた「見切り発車」のカードである。フランスやオランダの高官からは苦言が提されており、全加盟国の承認というハードルは相応に高そうに見える。とはいえ、①を望む国が多いわけではなく、英・EUともにそれだけは避けたいという基本方針は変わっていないだろう。
筋を通すのであれば④のスケジュール通りに離脱協定案の内容に沿って粛々と離脱、もしくはノーディールで離脱とすべきである。だが、5月22日まで待ってもらえるケースはあくまで「英議会が離脱協定案を議会で可決した場合」に限る。いまだに議会で否決を繰り返している英国政府にこれを希望する権利はない。ちなみに、長期に延長するならば欧州議会に候補を出すべきという筋論から、英国が欧州議会選挙に参加をする場合、その6週間前までに通知する必要がある。5月22日の6週間前こそが4月12日であり、EUが設定した実質的な交渉期限である。
「12カ月延期」は有力も、全会一致となるのか
とすると、②の可能性が残る。交渉上、強い立場にいるEU(の大統領)がこれを望んでいるのだとすれば、有力な選択肢と言わざるをえない。報じられているように、厳密には同案は12カ月「以内」という解釈が正しそうだ。具体的には「英議会が離脱協定案を可決次第、離脱させる」という案であり、英議会内の強硬離脱派にも配慮した折衷案といえる。不毛な小幅延長を避けるには妙案であろう。英議会の強硬離脱派が反対することが予想されるものの、12カ月という期限が切られていれば譲歩の余地もあるのではないか。
しかし、これまでの経緯を踏まえれば、「許されている時間」が12カ月あるならば、間違いなく英国は12カ月を使い切るはずだ。そうなるとEUも金融市場も、またあと1年この話題に付き合わねばならなくなる。ユーロ圏財務省や共通予算といった大型改革を提案し、これを主導したい立場にあるマクロン大統領などはこの状況を看過できないという立場である。
マクロン大統領の場合、自身の支持率が青息吐息なので、改革を「できる時にやりたい」という思いがことさら強い。また、いつまでもこれから出て行く国に時間とコストをかけ続けるのが得策ではないのは間違いない。EUからすると「改革の邪魔だから早く出て行って欲しい」が本音だろう。12カ月延期案が全会一致で承認されるのかも不透明だ。
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