安倍首相の靖国参拝は成功だったのか? 靖国参拝で、漁夫の利を得た中国

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ニュースにもそれを見ることができる。「安倍靖国参拝」が伝わった直後に流れた、中国語メディアの第一報のタイトルには「安倍『拝鬼』」という言葉が多用されている。「鬼」とは「幽霊」という意味だが、憎々しげな「幽霊」のことだ。社会主義中国では特に死後の霊魂の世界を否定しているから、「拝鬼」という言葉には「異様、不気味、非科学的なものを拝するおどろおどろしさ」というニュアンスがある。これまで中国当局はこうやって読む者に独特の毒々しいイメージを植え付けてきた。

だが、今回は中国共産党トップも毛沢東記念堂を訪れていたことから、ネットでは彼らの行為にも「拝鬼」という言葉が使われた。当然、メディアに踊る「拝鬼」に人々は安倍首相の靖国参拝とともに、中国指導者が勢揃いして記念堂に眠る毛沢東を訪れた姿を連想させた。

それを受けて政府当局は慌ててメディアに「拝鬼」の使用を諌めたのではないか。というのも、その後時間が経つに連れ、タイトルに「拝鬼」が並ぶ記事はガクっと減り、「安倍、靖国神社を参拝」という具体的な言葉が使われるようになったからだ(実際に今に至るも中国トップが毛沢東の遺体を眺めている現場写真は公開されていない。それは靖国神社を歩く安倍首相の姿よりもっと「拝鬼」を連想させるからだろう)。

このような動きが逆に中国政府が激しい反応を見せるのを止める役割を果たした可能性もある。

靖国問題は「過去の遺物」

さらに中国はすでに2013年後半には正式に経済関係者による大型訪日団や、地方政府や公的機関が組んだ訪日団を次々と送り込み始めている。つまり、尖閣国有化で「振り上げた腕」の落とし所を探り始めている矢先だったのだ。もちろん、その手をまた振り上げることがないとはいえないが、国内事情がそれを許さない状態にある。

2012年の反日騒ぎの後、中国は共産党(及び国)のトップが総入れ替えとなった。あの強烈な騒ぎはその華々しい手土産だったと言えないこともない。

だが、共産党の新総書記となった習近平をトップとする体制はその後1年間、胡錦濤時代とはまったく違う価値観である「チャイニーズ・ドリーム」を提唱した。厳しく汚職を取り締まり、官吏体制を引き締め、新たな経済発展路線図などを進め、2013年11月の中央委員会第3回全体会議では正式に大綱を発表した。やっと助走期を終えたところだったのだ。

訪日団が増えているのも2年目の始まりをにらんだものであり、「習体制」はこれから本番に入るところだった。そこで再び腕を振り上げる余力はさすがの中国にもない。

特に、前述したように中国はすでに「靖国参拝」に対して日本に向けた「弾」を使い果たしている。ここでグレードアップして「大砲」を打ち込むことができないわけでもないが、打ち込むにしても過去の幽霊である「靖国問題」に打ち込むべきか、それとも未来の台湾領有目標につながる尖閣問題で打ち込むべきか――そう問われれば、当然後者のためにチャンスをとっておきたいはずだ。中国の現首脳にとって目の前にうず高く積まれた難題に比べれば、靖国問題はもう「過去の遺物」でしかなくなっている。

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