安倍首相の靖国参拝は成功だったのか? 靖国参拝で、漁夫の利を得た中国

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

欧米メディアの批判を利用

中国にとってラッキーな事は、今回の靖国参拝に対して西洋社会からも非難の声が次々と上がったことだ。もともと尖閣国有化に至る日本の動きは、欧米メディアでは「今回は日本がとても強硬な態度を見せている」と伝えられており、もちろん反日デモの激しさ、特にその暴力には驚きの声を挙げたが、それでも西洋メディアでは、日本の「強硬さ」が中国を刺激した結果だと考えている。

その後、日中が遅々として歩み寄らない一方で、東シナ海識別圏を中国が発表。圏内を飛ぶ飛行機に対して事前の飛行計画提出を求めたことは日本だけではなく、近くを飛行する欧米航空会社にも影響を与えている。

また、かつてダライ・ラマと会談して以来、1年余り中国側にそっぽを向かれ続けていたイギリスのキャメロン首相が13年12月初めにやっと訪中を許され、そこで徹底的に平身低頭したこともまだ記憶に新しい。あのバツの悪さは、西洋諸国に「今後、強大化する中国といかに付き合うべきか」という命題を巡って議論を巻き起こしている。そこに、日中間にも解消の緒が見えないうちから安倍首相が靖国を参拝したことを、西洋諸国は「東アジアをヒートアップさせる愚行」と批評した。

それを受けて、中国政府は通り一辺の政府関係者の批判声明を読み上げた後、海外メディアの日本に対する批判を直接引用するようになった。中国政府が声や腕をあげなくても海外から批判が飛び、それを国内に転電すれば、国民に対して直接「日本が靖国参拝で非難されている」という文脈を作ることができる。アメリカやイギリスなど先進国がこぞって日本に批判的となれば、中国がつばを飛ばす必要はない、というわけだ。

「日本はずし」から「安倍はずし」へ

12月30日、中国外交部はその定例会見で、日中首脳会談の可能性を尋ねられて「安倍とは絶対に会わない」と答えた。これはたぶん安倍首相にとっては想定内のことであったろうし、個人的には打撃はないだろう。

だが、この言葉は「安倍には会わない。が、他は歓迎する」という意味だ。かつて小泉政権でやはり靖国問題が長引いた時、中国は徹底的に小泉元首相及びその周囲を「シカト」した。一方で経済関係者とはにこやかに握手しつつ、「コイズミはダメだ。彼がいる限り我々は日本を全面的には歓迎しませんよ」というメッセージを送り、小泉締め出しを図った。

安倍首相にもその手法を使うらしい。だが、これはいみじくも、政府が焚きつけ煽りまくった反日デモ以降採ってきた「日本はずし」を「安倍はずし」にダウングレードさせるものだ。中国はやはり日本との経済協力を求めている。反日デモを覚えていますよね、「民衆」が怒ったら怖いでしょ? それもこれも政治家のせいですよ、あの政治家さえいなければもっと美味しい思いができますよ…と企業家の耳元でささやく、のである。

つまり、冒頭に書いたとおり、安倍首相は表面上「うまく」やったように見える。しかし、実のところ、国際社会で矢面に立たされたのも首相であり、中国はうまく漁夫の利をさらった形となった。このままほっかむりしていれば、東アジアの緊張感高まりの責任は「どっちもどっち」ということになるだろう。世界が中国の取り扱いに頭を抱えているのは事実だが、その中国を焚きつけるような行為を日本が続ければ、日本は問題児として世界にお荷物になってしまう可能性もある。

中国を本当にぎゃふんと言わせたいのなら、安倍首相一人が頑固さを見せるのではなく、中国に注がれる世界の眼差しを利用すべきだ。

ふるまいよしこ フリーランスライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ふるまいよしこ

北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部卒。香港中文大学で広東語を学び、雑誌編集を経てライターに。香港居住14年の後、北京での13年半を経て、中国や香港について、大手メディアが注目する政局視点よりも、主に社会や庶民の視点からのレポートを行う。著書に『中国メディア戦争』(NHK出版)など。noteはこちら

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事