ポスト・モラーでワシントン政治は政策論争へ ロシアゲートはひとまずトランプの勝利

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ロシア政府がクリントン陣営などのパソコンに潜入し、選挙戦に影響を及ぼす情報を取得しウィキリークスなどを通じて一般に公開していたことは事実だ。そして、トランプ大統領が2016年大統領選挙の最中、ロシア政府による選挙介入を表立って歓迎していたのも確かだ。トランプ大統領は公の場で「ロシア、もし聞いているなら、(ヒラリー・クリントン候補の)消えた3万通の電子メールを見つけ出せることを望んでいる」と語っていた。それでもモラー氏による捜査で、トランプ陣営とロシア政府の共謀の事実は判明しなかったのである。

ワシントンポスト紙は、モラー報告書概要は「トランプ政権の頭上を漂っていた最も黒い暗雲の1つを一掃した」と描写した。大統領は共和党内の支持をより強固なものとしたとみられる。一方、民主党にとっては明らかに期待外れであった。今年6月には民主党大統領候補によるテレビ討論会が始まり、2020年大統領選が本格化しようという矢先、民主党にとっては現職大統領を攻撃する格好の材料を失う痛手となった。

トランプ大統領は2016年大統領選で反主流派を掲げ、アウトサイダーとしてワシントン政治を改革することを約束した。大統領は次期選挙戦で、モラー報告書の結果について、既存政治を維持しようとするワシントンの主流派が大統領を阻止しようと企んだものの失敗に終わった代表例として、訴えるであろう。

大統領は民主党が展開する大統領に関わるさまざまな捜査は政治的意図があり不当であるとの主張を強めると予想される。つまり、大統領をめぐる他の捜査についても、民主党やリベラル寄りのメディアによる「魔女狩り」として批判し、捜査の信憑性を疑う主張を展開することが見込まれる。

大統領の「魔女狩り」批判で、民主党は劣勢に

民主党は大統領の司法妨害についてはモラー報告書で結論が出なかったことから、引き続きトランプ大統領に対する疑いや反感を持ち続けるだろう。仮にバー司法長官が報告書の全文を公開したとしても、民主党支持者の一部は民主党にとって都合のよい解釈を行うことも想定される。

とはいえ、大統領に「魔女狩り」と批判される民主党が、モラー報告書の全文公開に期待を高めることにはリスクが伴う。もし仮にモラー報告書全文が公開されたとしても、大統領に対する新たな問題点が明らかとならなかった場合、民主党はますます窮地に追い込まれるからだ。

モラー報告書の概要が公開されるまで、民主党の一部では大統領の共謀に確信を持った発言が散見された。党内で人気が高まっているベト・オルーク民主党大統領候補はモラー報告書の概要が公開される前日にも、大統領がロシア政府と共謀していたと批判していた。だが、捜査結果を受けて民主党大統領候補はこれ以上、この問題で大統領を追及することに慎重にならざるをえない。

トランプ大統領をめぐる他の捜査についても同様だ。ポスト・モラーのアメリカ政治では、大統領を追及するには、以前にも増して確固たる証拠を集めなければ、民主党側が大統領のスキャンダルを政治利用しているとのレッテルを貼られかねない。

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