ポスト・モラーでワシントン政治は政策論争へ ロシアゲートはひとまずトランプの勝利

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政治アナリストのチャーリー・クック氏はトランプ大統領をつねに支持する固い支持基盤の有権者が約35%いる一方、つねに支持しないとする有権者が約45%いると分析している。これら計約80%の国民は大統領の支持・不支持は何があっても揺るがず、モラー報告書の結果がどうであれ、大統領に対する評価は変わらないという。したがって、中間にいる残り20%の穏健派が2020年大統領選の勝敗を決める模様だ。

仮にモラー報告書で大統領のロシア政府との共謀が判明していたら、クック分析の20%の穏健派のうち、2016年大統領選でトランプに票を投じていた有権者が2020年では考えを変える可能性が高い。だが、ポスト・モラーの世界では、トランプ大統領に投票したこれら一部の穏健派は大統領支持にとどまる可能性が高まった。また、メディアや政府組織の政治的な動きに懐疑的な穏健派の有権者がトランプ大統領に同情して支持に回る可能性もあろう。

モラー報告書概要の公開後、民主党の新人ラシダ・トレイブ下院議員はトランプ大統領の弾劾決議案を提出した。だが、現時点では民主党指導部に限らず、民主党内でほとんど支持を得られていない。上院の弾劾裁判では大統領罷免に3分の2以上の賛成票を必要とし、民主党は共和党の協力が不可欠だ。ロシアゲート問題をめぐって、共和党支持を十分に確保できない見通しの中、大統領の弾劾手続きを行う可能性は極めて低くなった。

大統領選の共和党内での指名争いでもトランプ大統領は有利になるだろう。対抗するビル・ウェルド元マサチューセッツ州知事に加え、対抗を模索する可能性が噂されてきたジョン・ケーシック・オハイオ州知事、ラリー・ホーガン・メリーランド州知事などはポスト・モラーの世界では、ますます苦戦を強いられる可能性が高まった。

トランプ氏の勝利は長続きしないかもしれない

ただし、2018年中間選挙前、カバノー判事承認をめぐって共和党有権者の選挙への関心が高まったのとは違い、大統領選はまだ1年半以上先の話だ。したがって、トランプ大統領が共和党内で一時的に求心力を高めたとしても、それは長続きしないことも想定される。

なお、下院民主党はバー司法長官の証言とは別にモラーを下院に召喚し、委員会で証言させ、大統領に不利な新事実が判明する可能性がある。また、バー司法長官がモラー報告書の詳細を公開した後、中身次第では大統領に対する風当たりが厳しくなる可能性も残されている。

ロシアゲート問題以外でも、選挙資金問題や大統領就任式の寄付金不正利用をはじめ大統領に関わる各種スキャンダルの捜査が続いている。仮に大統領が犯罪に関与していなかったとしても、内容次第では大統領に対する穏健派の評価が下がる可能性はある。ロシアゲート問題で1つの暗雲は一掃されても、他のさまざまな暗雲はまだ残っている。

一部民主党議員からは、トランプ関連の捜査から手を引くべきとの意見も出てきている。これらスキャンダルの追及を通じて、大統領はロシアゲート疑惑と同様に民主党の政治的思惑による犠牲者である、と有権者の目に映ることになれば、民主党にとって2020年大統領選での命取りとなりかねないからだ。民主党指導部では医療問題など政策に焦点をシフトする動きも見られる。

2020年11月3日に実施予定の大統領選でトランプ大統領を破ることが民主党にとっての共通の最優先事項である。中間選挙と異なり、大統領選は大統領の信任投票ではない。共和党候補と民主党候補の2人のどちらの将来を望むかといったことを有権者が選択する選挙となる。つまり、トランプ大統領の1期目4年間の審判だけでなく、民主党候補の政治思想や経済政策についても重要となる。

ポスト・モラーの世界では、民主党は大統領の各種疑惑の調査を推進しつつも、確固たる証拠が判明しない限り、トランプ大統領のスキャンダルの追及には深入りせず、自らがホワイトハウスを奪還した場合に実行する政策を大統領選に向けて示していくほうに重点を置いたほうがよさそうだ。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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