ポスト・モラーでワシントン政治は政策論争へ ロシアゲートはひとまずトランプの勝利

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2016年アメリカ大統領選挙をめぐるトランプ陣営とロシア政府との共謀の証拠は見つからなかった(写真:REUTERS/Leonhard Foeger)

ウィリアム・バー司法長官が2019年3月24日に公表した、ロシアによる2016年アメリカ大統領選介入(通称:ロシアゲート)に関するロバート・モラー特別検察官の捜査報告書(以下、モラー報告書)の主な結論の「概要」は、大統領にとって明らかに朗報であった。

1年10カ月続いたロシアゲートの捜査においては、大統領側近の行動について疑わしい新事実が次々と明るみに出て、偽証罪などで続々と起訴された。ロシア政府とトランプ陣営が共謀しているとの陰謀説は後を絶たなかった。だがモラー報告書の概要発表を受け、これら多くの陰謀説は行きすぎた憶測であったことが明らかとなった。

とはいえ、大統領の司法妨害については、モラー特別検察官は判断を避けており、大統領の潔白については玉虫色だ。2020年大統領選に向けて、民主党は引き続きロシアゲート問題の真相究明や大統領の各種スキャンダル追及にこだわるべきか、2018年中間選挙で効果を発揮した政策重視の路線に切り替えるべきか、党内で意見は分かれている。

一方、トランプ大統領、そして共和党は即時に勝利宣言した。共和党は少なくとも短期的には大統領支持で団結が強まっている。ポスト・モラーの新たなアメリカ政治が始まった。

「モラー報告書概要」は共和党に軍配

モラー報告書は2つのパートで構成されている。

1つ目がロシア政府による2016年アメリカ大統領選介入に関する捜査結果だ。モラー報告書では、ロシア政府はクリントン陣営や民主党組織のコンピュータに潜入し情報を分散するなどで選挙戦へ影響を及ぼす試みが見られた、と結論づけている。だが、トランプ陣営および関連する人物がロシア政府と共謀し2016年大統領選に影響を及ぼすことを試みた証拠は、見つからなかったとしている。

2つ目が、大統領による司法妨害に関する捜査結果だ。本件についてバー司法長官の概要では、モラー報告書の「この報告書は大統領が罪を犯したと結論づけていないが、同時に大統領の潔白を証明しているものでもない」といった記述を抜粋している。モラー特別検察官が大統領の司法妨害に関わる捜査結果について事実の記述のみにとどめたことを受け、司法省関連部署と協議した上で、バー司法長官はロッド・ローゼンスタイン司法副長官とともに、大統領の司法妨害を立証するためには証拠は不十分と判断した。

大統領の司法妨害に関するバー司法長官とローゼンスタイン司法副長官の判断は玉虫色のため、共和党と民主党の間で解釈が2つに割れている。トランプ大統領および共和党は大統領の潔白は証明されたと主張。一方、民主党は、トランプ大統領が指名したバー司法長官に対し、大統領寄りのバイアスがかかっていると批判している。そのため、民主党はモラー報告書の全文公開を要請している。

モラー報告書で大統領の問題行為について新事実が判明するのかどうかは不明であるものの、法律そして司法省のプロトコルに基づき一部情報が削られた同報告書が4月中旬に一般公開された後も、党派間で論争は続く可能性がある。

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