イギリス「EU離脱」はなぜこうももめているのか 今さら聞けないブレグジットの功罪
しかしメイ首相は、幾多の困難を乗り越え、2018年、何とかEUとの間で離脱協定の合意にまでこぎつけた。そこにはイギリスとEUが今後も「良好な関係」を続けるために必要な条件が書かれていた。
・離脱清算金390億ポンド(約5兆7000億円)
・在EUイギリス市民と在英EU市民への影響(ブレグジット後も居住や社会保障の権利を保持する)
・「北アイルランド―アイルランド」国境に、物理的な管理体制をなくす方法
・イギリスとEUで通商協定を結び、企業が調整するための移行期間の設定
ここで最大のネックになっているのが、アイルランドとの通商問題、いわゆる「バックストップ」案だ。これはイギリスとEUの通商協定がうまくまとまらなかった場合でも、アイルランドと北アイルランド間の厳格な国境審査を復活させずに済む、いわゆる「安全策」だ。
離脱協定はすでに2度否決されている
イギリスは「北アイルランドをイギリス領にしている」せいで、北アイルランドに過激なテロ組織「アイルランド共和軍(IRA)」を生み出した(現在もその分派は活動停止を宣言していない)。厳格な国境審査の復活は、間違いなくテロリストを刺激する。そこで必要になるのが、バックストップだ。
バックストップ発動中、イギリスは「暫定的にEUとの関税同盟に残る」ことになるため、従来どおり厳格な国境審査も関税もない状態が続く。ただしイギリスだけに有利にならないよう、その間イギリスは、他国とのFTAやTPPなどの通商協定は結べない。
さらにいったん発動したら、EUとの協議なしに終了させることはできない。離脱強硬派はこれを嫌がっている。EUが認めない限り、バックストップから抜けられなくなるからだ。
この問題が最大のネックとなって、イギリス議会はもめにもめている。2019年1月には、EUと合意に達したこの離脱協定を、下院は歴史的大差で否決(202対432票)した(保守党議員の約4割が造反)。その直後、メイ内閣への不信任案が出されるも、こちらは否決。しかし3月、再度EUとの合意に達した離脱協定修正案が、またまた大差で否決された。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら