ジョブズが部下を「クソ」と罵った深すぎるワケ 最強企業の秘密は「キツイ」マネジメント

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「いつも正しい人なんています?」

「スティーブがいつも正しいって言ったんじゃない。いつも正しいことをやるって言ったんだ。ヤツは間違っていても、しつこく言い張る。すると周りが違うと教えてくれて、あいつは最後にいつも正しい場所にたどり着く」

アップルに入社した後、アンディの言葉が正しかったことがわかった。スティーブは、自分が間違っていたとわかれば喜んで、しかも熱を込めて自分の意見を変えることも多かった。

とはいえ、決して穏やかに「君は正しい、僕が間違っていたよ」と納得したわけではない。スティーブの心変わりの激しさに頭にきている社員は多かった。

俺の間違いを正さないお前が悪い!

ある同僚は、スティーブと議論になり、納得できなかったけれど結局自分が引き下がったと話してくれた。その後、わたしの同僚の意見が正しかったことが明らかになると、スティーブはずかずかと彼のオフィスにやってきて怒鳴りはじめた。「でも、あなたのアイデアですから」と同僚は言った。すると、スティーブはこう返した。「そうだ、俺が間違っていると説得するのがお前の仕事なんだ。そうできなかったのはお前のせいだ!」。それからは、彼はもっと激しくスティーブに反論し、どちらかが正しいと納得するまで徹底的に議論した。

スティーブは自分の間違いを認め、周りの人たちに徹底的に反論させることで、正解にたどり着いていた。スティーブ流は誰にでも真似できるものではない。彼は恐れず反論してくれる人を雇い、もっと大胆になるように励ました

別の友人も、スティーブと言い争ったときのことを教えてくれた。彼女はスティーブが間違っていると説得できたものの、スティーブは彼女のアイデアをまるで自分が前から考えていたように披露した。スティーブは正解を得ることに集中するあまり、それが誰のものかなど気にしていないだけだろうと彼女は思った。とはいえ、そんなやり方は、手柄が欲しい人にはムカつくものだ。

しかし、間違いを恐れず、自分が正しいかどうかより、正解にたどり着くまで周りの人に反論してもらうおうとつねに努力することが、アップルの並外れた実行力につながっていたということは事実だろう。

キム・スコット Candor, Inc.共同創設者・CEO

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Kim Scott

FCC(アメリカ連邦通信委員会)の上級政策顧問、コソボの小児科医院のマネジメント、モスクワでのダイヤモンド切削工場開設、ソビエト企業基金のアナリストなどの異色のキャリアを経て、ジュース・ソフトウェア(Juice Software)の共同創設者となりCEOに就任。同社破綻後グーグルで、アドセンス、ユーチューブ、ダブルクリックの営業と運用チームを率い、アップル大学の教員を経て、キャンダー・インクを創設。現在、ドロップボックス、ツイッターほか、いくつかのハイテク企業でアドバイザーを務めている。夫のアンディー・スコットと双子の子どもとともにサンフランシスコのベイエリアに暮らす。また3冊の小説を上梓している。

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