フリーターが支える急成長企業の秘密

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バイトが正社員の登竜門 OJTで店長の卵育てる

書籍をベースに雑貨やCDも複合陳列する「遊べる書店」。ヴィレッジヴァンガードコーポレーションは、08年8月まで90カ月連続で既存店売り上げを伸ばした。消費不況の中、多くの客の支持を集める。

同社は新卒の正社員採用を行っていない。営業部門の正社員全員が同社アルバイト店員出身。しかも彼らの8割は「元お客さん」だ。

アルバイトから正社員に登用されるまでは平均4・2~4・3年。早い人では2年の例もあるが、6~7年かかる例も、まれながらある。毎年40人程度が正社員登用されている。

現在は本社・店舗開発室で働く後藤洋之さん(28)も客出身。同社の東京・下北沢店に出入りしていた。大学3年で就職活動を始めたものの、景気がようやく底を脱した頃で、就職セミナーに出てもやりたい仕事が見つからない。当時、後藤さんの目に留まったのが、同社・菊地敬一社長が著した『ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を』。下北沢店ではアルバイト募集がなく断られたものの、横浜のワールドポーターズ店のアルバイトに採用された。

採用後1~2カ月で早くも「仕入れ」を任される。同社の店長権限は広い。画一的な店舗運営マニュアルはなく、アルバイト採用数の決定や売り場づくり、仕入れの権限も店長にある。店長はそれをOJTの意味合いも兼ね、アルバイト店員に任せる。後藤さんの最初のトライアルはお菓子コーナー。POPやディスプレーを見よう見まねで作り込んだが、すぐ壊され、店長が作り直した。

後藤さんがつねに意識したのは正社員への昇格だ。同社正社員は平均年収465万円(平均31・4歳)。同じ店長でも正社員は残業料こそ出ないものの、管理職手当やボーナスが乗る。一方、アルバイト店長の場合は残業料はあるが、時給制でボーナスもなく、年収差は大きい。

後藤さんの店長初体験は大学卒業後の23歳、イオンララパーク店(三重)だった。新店だけに集客力抜群。新米店長には客の山がさばけない。結局、正社員登用はならずアルバイト店員に「降格」。イオン札幌苗穂店(北海道)で管理者としてOJTを受けた。半年後、北上店(岩手)で再び店長に就任。そこでの成果を認められついに正社員に登用された。「最初の店長失敗経験が大きかった。そこからはい上がるため、意地でも正社員になろうと考えた」。

ここ数年、同社は毎年40~50店の出店が続いている。営業部門を統括する清水憲・執行役員は「さらにアルバイト店長の正社員化を促すなどの方策を検討中」と語る。同社が新たな連続増収記録にチャレンジするためにも、待遇面を含めた若者のつなぎ止めはカギとなりそうだ。

(週刊東洋経済)

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