「借金漬け」日米中が破たんする可能性はあるか 膨張する債務はいつ「持たなくなる」のか?

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では、日米中は今後、債務累増の過程で「借り入れ条件の悪化」に見舞われたりしないだろうか。

債務の積み上げには、債券を発行したり借り入れ・借り換えを行ったりする。その金利水準は、借り手のリスクのみで決まるわけではない。金利水準は、借り手の需要と貸し手の供給のバランスでも決まってくる。日本の政府債務と中国の民間債務はどちらも世界屈指の工業力により蓄積された巨額の国内資産でまかなわれており、その点で対外借り入れに頼らざるをえなかった1980年代ラテンアメリカとは異なる。

日本と中国は「借金大国」だが一方で、対外輸出で多額の資金を蓄積している。そのマネーでアメリカや欧州諸国の国債も大量に購入している。つまり、資金の貸し手のニーズがあまりに強く、借手にとって借り入れ条件の悪化(金利の上昇)は起きていない。

「割高な通貨」がその国の産業に壊滅的な影響を与えることを説明したが、今の日米中でそうした状況が起こりえるだろうか。現在では通貨についてフェア・バリュー分析をする技術が進んでいる。2008年のリーマンショック直後から数年間の日本円を例外として、主要通貨があからさまに割高な水準に放置されるという状況はほとんど見られない。

警戒すべきは「ユーロ圏の周縁国」

こうして見ると、現在の債務大国は1980年代のラテンアメリカ諸国が陥った負のスパイラルからは縁遠い状況にあると言えるだろう。

とはいえ、現在の状況が永遠に続く保証はない。日本についても、例えば今後新規に生産される自動車のほとんどがEV(電気自動車)に置き換わり、その市場の大半を中国に持っていかれるようなことになれば、どうなるかわからない。「稼ぐ力」が一気に低下し、債務返済能力に疑問符が付くかもしれない。しかし、実際のところ日本には莫大な金融資本が蓄積されており、それを有効活用すれば、工業競争力の低下から直ちに債務危機に陥るようなことはないだろう。

中国はどうか。政府債務が増え続ける日本やアメリカ、欧州諸国とは異なり、中国では民間債務が年々、膨張している。仮に民間債務が不良債権化すると、政府による救済策を行ったとしても一定の経済混乱は続くことになるだろう。ただし政府債務について見れば、中国は日本やアメリカほど積み上がっていない。中国の工業競争力についても、今後強まりこそすれ弱まると見る向きは少ない。中国も日本と同様、直ちに債務危機に陥るとは考えにくい。

では、ラテンアメリカの二の舞を演じそうな国は見当たらないのか。そんなことはない。筆者は「ユーロ圏の周縁国」から、再びギリシャのように難しい状況に追い込まれる国が現れてもおかしくないと見る。そもそも「稼ぐ力」がさほど強くない周縁国もある。しかも、ユーロという単一通貨を採用していることから、昨今の先進国では起こりにくい「割高な通貨」という事態に見舞われる可能性も小さくない。先に述べた「3つのエッセンス」を図らずも満たしてしまう危険性があるのだ。

ただし、EU域内でそうした危険性をはらむ国を事前に救済する仕組みができあがれば、債務危機は起こらないだろう。そう望みたいものだ。

杉山 智行 クラウドクレジット社長

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すぎやま ともゆき / Tomoyuki Sugiyama

クラウドクレジット株式会社 代表取締役社長。2005年東京大学法学部卒業後大和証券SMBCに入社し、金利、為替の自己勘定取引チームで日本国債への投資業務等に携わる。2008年ロイズ銀行東京支社に入行し、資金部長として支社経営陣に対してリテール預金の獲得など日本での事業機会について助言を行う一方、運用子会社の日本における代表および運用責任者を兼任。2013年1月にクラウドクレジット株式会社を設立し、投資型クラウドファンディング・サービスを展開。日本の個人投資家と世界の資金需要者がWin/Winの関係を作るサポートを行う。

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