「借金漬け」日米中が破たんする可能性はあるか 膨張する債務はいつ「持たなくなる」のか?

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海外からの借り入れに依存するラテンアメリカ諸国の債務水準は上がっていった。同時に「借り入れ条件の悪化」が起こった。借り手(国)の財務状況が悪ければ、貸し手(国)は高い金利を求める。その流れが強まった。

ラテンアメリカ諸国の輸出は1次産品が多かったが、1980年代に入る前後から世界的に1次産品は価格が低迷。ラテンアメリカ諸国は「交易条件の悪化」にも見舞われた。債務危機への「第2フェーズ」は、「稼ぐ力」のさらなる低下、そして「借り入れ・交易条件の悪化」のダブルパンチが招いたのだった。資金の海外逃避もこの頃から増え始めた。

債務危機に陥る「3つの本質的な要因」とは何か?

こうした状況は1982年に臨界点を迎え、以後ラテンアメリカ諸国は相次いでデフォルトを繰り返すようになる。貸手の先進諸国は官民とも柔軟に債務返済の繰り延べに応じたものの、焼け石に水だった。ラテンアメリカ諸国は累積債務の「負のスパイラル(連鎖)」に入ってしまったからだ。

ラテンアメリカ諸国は債務の増加、資金の流出を抑えるために輸入制限を行った。しかし、それは経済成長、雇用維持を困難にしただけでなく、物資不足からインフレにさらなる上昇圧力をかけることになり、ハイパーインフレへと事態が悪化した。そこで各国は通貨切り下げを行う。

だが、インフレ率の上昇がそれを上回って進行したため、結果的に切り下げ率は不十分となり、各国の通貨水準は軒並み割高になってしまった。「割高な通貨」はその国の産業に壊滅的な影響を与える。交易条件がさらに悪化したラテンアメリカ諸国では、産業の弱体化から民間企業の倒産が相次ぐようになった。

その後は通貨を切り下げても輸入物価の上昇につながり、ハイパーインフレがさらに加速。通貨は一段と割高になり国内企業の倒産が続く……という負のスパイラルが実に10年も続いた。これによってラテンアメリカの社会不安は増大し治安が急速に悪化。現在でも「ラテンアメリカ」と聞くと、犯罪、麻薬、テロ、ハイパーインフレといったネガティブイメージを想起する人が多いのではないだろうか。

このように1980年代ラテンアメリカ諸国の債務危機を振り返ると、その原因は複雑に絡み合うとはいえ、3つのエッセンス(本質的な要因)が浮かび上がる。

① 対外的に稼ぐ力が不足していた
② 経済成長率を維持するために対外債務を積み上げていった・債務が累積する過程で借り入れ条件も悪化した
③ 通貨が割高な状況となり、産業に大打撃を与えた

では、今や債務大国となった日本、アメリカ、中国は、この3つのエッセンスをどこかにはらんでいないだろうか。

まず「対外的に稼ぐ力はあるか」という1つめの要因について見ると、日本も中国も経常黒字だ。また、ドイツに牽引されるEU諸国も高い工業競争力を有し、経常黒字だ。一方、アメリカは財政・経常の「双子の赤字」を抱えてはいるものの、「GAFA」のような巨大企業を中心に巨大インターネット企業が世界市場を席巻、世界の株式時価総額の約半分をアメリカ株式市場が占めている。現在の債務大国の「稼ぐ力」は、1980年代のラテンアメリカとは比べようもない。

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