紙とネットでハイブリッド化、ベネッセ「進研ゼミ」の奮闘
とはいえ、これほど大規模な開発は社内初。「進研ゼミは30年以上、改良、改善を積み上げてきた巨大サービス。さらに超えようとすること自体がチャレンジング」。プロジェクトリーダーの三橋佐和子教育事業本部副部長は、“初めて尽くし”の苦労をそう振り返る。
03年の会員減は、02年度以降のゆとり教育の教科書に準拠して教材を変更したことに一因がある。難易度の低さに保護者の不安が募ったためだ。その後、数学・英語でレベル別の教材を導入、添削期間も2週間から3日に短縮するなど、改善を重ねることで乗り切ってきた。その効果をアンケートで徹底的に測定する。郵送で1800人、Webでは1万5000人に100問程度の項目評価を依頼し、教材の活用度、満足度などを教材編集に反映する。子供を本社に招いてのグループアンケートや、会員宅訪問も行った。その時点で、できるかぎりの手は尽くした。
しかし、「進研ゼミ」が生き残るためには、それだけではやはり不足。どんな中学講座なら、子供たちは自発的に継続してくれるか、理想の教材について話し合うことから模索を始めた。塾にできなくて進研ゼミにできることは何か。子供たちが大人になる10年後に、本当に必要となるスキルは何なのか--。たどり着いた結論が英語力、そして問題解決力という二つのコンセプトだった。
一人で問題を解決できるようになること--。だが通信教育において、その鍛練と学力向上とは、直接的には一見つながりにくい。どんな道筋でこのコンセプトに至ったのか。
ベネッセが04年当時に行った調査によると、学力や学習意欲によって成績のよい子とそうでない子の二極化がどんどん拡大していた。「勉強しようという気持ちがわかない」と答える中学1年生は53・9%と半数以上にも上っていた。
塾に勝つための仕掛け,継続率は10%上昇
通信教育の弱みは飽きと孤独感。塾に行けば仲間もできるし、カリキュラムに従って成績も上がる。だが、社会に出たら塾も教師もいない。通信教育のベースである、自発的に学ぶ姿勢は、必ず将来につながる力になるはず、と考えた。勉強だけでなく、将来社会人となったときに必要な問題解決力を鍛えるべく、毎月一つの職業をベースにした「スペシャルプログラム」を作成。自動車販売員の例なら、年齢、趣味と購入車種とを関連させ、異なる複数の事例を応用して問題を解決する力を磨く。
このコンセプトを実際の教材に取り込むのも一作業だった。「システム担当者とデジタル版の編集担当者、各教科の編集担当者、皆それぞれの専門領域で考える。全体のバランスを取って解を出せる人がいない。意見が偏り、まとめるのに苦労した」と三橋リーダー。
最後まで難航したのが、既存の紙の教材とWeb教材との関連性をどう持たせるかだった。既存の教材にWeb教材を準拠させるべきか否か。意見は割れた。最終的にWeb教材は誌面に準拠し、わかりづらい部分をWebで解説、続けて問題を解く流れにした。
教材はまとまった。だが、これで継続率は上がるのか、採算は確保できるのか、不安を払拭し切れない。eラーニングの失敗事例は業界に山ほどあるのだ。どういう事例が成功を収めているのか、三橋リーダーはeラーニングの権威の元を毎月訪ねて情報収集した。