日本の観光地を台無しにする「看板公害」の実情 マナー違反を止めるには「看板」しかないのか

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ここで祇園の花見小路に関して、“看板以外の”創造的な解決策を考えてみましょう。それは例えば「花見小路レーン」の設置です。花見小路の半分を仕切り、そこに芸妓、舞妓、置屋、お茶屋さんら、地元の花柳界や飲食店の関係者しか歩けない歩道を設けてはいかがでしょうか。

「花見小路レーン」は歩行者天国ではなく、あくまで「地元民天国」。地元民にはパスを発行し、パスを持っていない人は歩けない。花見小路に並ぶお店に接近できるのも、予約のある客だけ。レーン設置の時間帯を芸妓さん、舞妓さんたちが出勤する夕方に限定すれば、大きな支障も出ません。これを実行したら、観光公害に悩む京都が行った“英断”として、世界的なニュースになるかもしれません。

もう1つ、入り口に「マナーゲート」を設ける方法も考えられます。ゲートを通過できるのは、事前にマナー講座を受けた人だけ。それらの受講者には特別なパスが発行され、特権的にゲートを通ることができるようにするのです。

ゲートの設置は花見小路だけではありません。清水寺、二条城、金閣寺、銀閣寺……。混雑を極めるあらゆる観光名所に「マナーゲート」を設けましょう。もちろんマナー講座は外国人だけに用意するのでなく、日本人観光客にも受けてもらいます。

「日本人にもマナー講座を」というと、ブラックジョークにも聞こえるかもしれませんが、要は観光をするにあたって最低限の常識を観光客に持ってもらうことがいかに大切か、ということです。

そろそろ日本も「大人の対応」を

最後の手段として、罰金もあるでしょう。実際にフィレンツェなどでは、悪質なマナー違反に対して罰金を科しています。

祇園では数の多い外国人観光客の蛮行が目立ちますが、実はそれと同じく困った人たちが、日本人によるパパラッチ行為です。観光客が舞妓さんに群がるときに、ここぞとばかりに便乗して、日本人の「変態パパラッチ」が盗撮や痴漢に近い行為を働く事例が聞こえてきています。

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そこで「舞妓さんにタッチしたら10万円」という罰金条例を制定することにしたらどうでしょうか。蛮行1回10万円となれば、傍若無人な人でも少しは躊躇するはずです。

極端な案も含め、ここでいくつかのアイデアを記したのは、マナーコントロールの帰着点を「看板」にしないためです。

人は「看板」があるからマナーを改めるのではありません。「看板」を見て、それでマナーに注意を払えるような人は、そもそもマナー違反をしない人のはずです。来訪者を子ども扱いして、「これはダメ」「あれはダメ」「これをしろ」「あれをしろ」と、あらゆる行動を規制しようとすると、キリがありません。

マナー違反などがあまりに多い場合にはそれを防ぐ仕組みを導入する。看板については必要性を吟味し、必要がある場合は、デザインと位置に留意したうえで設置する。それ以上は、相手の常識に任せるしかないのです。

そして世界でも有数の著名な観光地を多く持ち、実際に世界各国から観光客を迎え入れなければならなくなった日本は、そろそろそのような成熟した「大人の対応」へとシフトするべき時代を迎えているのです。

アレックス・カー 東洋文化研究者

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Alex Arthur Kerr

1952年、アメリカ生まれ。NPO法人「篪庵(ちいおり)トラスト」理事長。イェール大学日本学部卒、オックスフォード大学にて中国学学士号、修士号取得。1964年、父の赴任に伴い初来日。1972年に慶應義塾大学へ留学し、1973年に徳島県祖谷(いや)で約300年前の茅葺き屋根の古民家を購入。「篪庵」と名付ける。1977年から京都府亀岡市に居を構え、1990年代半ばからバンコクと京都を拠点に、講演、地域再生コンサル、執筆活動を行う。著書に『美しき日本の残像』(朝日文庫、1994年新潮学芸賞)、『犬と鬼』(講談社)、『ニッポン景観論』(集英社)など。

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清野 由美 ジャーナリスト

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きよの ゆみ / Yumi Kiyono

東京女子大学卒、慶應義塾大学大学院修了。ケンブリッジ大学客員研究員。出版社勤務を経て、1992年よりフリーランスに。国内外の都市開発、デザイン、ビジネス、ライフスタイルを取材する一方、時代の先端を行く各界の人物記事を執筆。著書に『住む場所を選べば、生き方が変わる』(講談社)、 『新・都市論TOKYO』『新・ムラ論TOKYO 』(いずれも隈研吾氏との共著、集英社新書)など。

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