日本の観光地を台無しにする「看板公害」の実情 マナー違反を止めるには「看板」しかないのか
ここでまた観光公害に悩まされている京都の事例を挙げたいと思います。京都といえば祇園、祇園といえば花見小路ですが、近年そこに「パパラッチ観光客」が大挙して押しかける事態になっています。
日暮れ時に花見小路に行ったとき、お座敷に出る芸妓さんと舞妓さんを観光客が取り巻き、顔先にスマホを向けて、バシャバシャと写真を撮っている光景に出くわしたことがあります。あまりのマナー違反に、思わず眉をひそめましたが、聞けばそのような光景がむしろ常態化しているといいます。
祇園ではパパラッチだけでなく、スナック菓子を食べたその手で舞妓さんの着物に触る、着物を引っ張って破く、袖にタバコを入れる、といった悪質な行為も報告されています。舞妓さんはおこぼ(高さ約10センチメートルの下駄)を履いているので、着物の袖を引っ張られたりすると転ぶ恐れもあり、あぶないのです。
よその土地に観光に来ている、ということで、普段よりはしゃいでしまうのでしょうが、舞妓さんへのちょっかいだけでなく、祇園では木造の建物の軒先でタバコを吸ったり、飲食をしたり、完全にプライベートな空間である置屋の玄関をいきなり開けたりするなど、観光客による数々の不行跡は枚挙にいとまがありません。
その不行跡への対策として祇園が選んだのは何か。それは「舞妓さんに触れてはいけません」「食べ歩きはやめましょう」といった禁止行為をイラストで記した看板の設置でした。結局、「看板」に頼る以外のアイデアがないのです。
世界で問題化する観光客の「マナー違反」
観光客のマナー違反は、祇園に限ったことではなく、世界中で問題になっています。
フィレンツェでは、サンタ・クローチェ聖堂など世界遺産の周囲で飲食をする観光客が問題になりました。ミケランジェロやガリレオが眠る聖堂の前に、食べ残しのゴミが散らかる事態に対抗して、フィレンツェ市はランチの時間帯に階段や建物の周囲に水をまいて、人が居座れないような強硬作戦に出ました。
タイのチェンライにあるホワイト・テンプル(ロンクン寺院)は、敷地中が白で統一された奇妙な味わいの観光名所ですが、ここにも近年は観光客が大型バスで押しかけて、さまざまなトラブルを起こすようになりました。
例えば中国人女性が使用後にトイレの水を流さず、トイレットペーパーの塊を便器の中に捨て、係員が注意したけれど、無視して去ってしまった、というようなトラブルも報道されています。言語だけでなく、さまざまな文化や生活習慣を背景に持つ観光客に対して、どのようにマナーを喚起するか。それについては世界中が試行錯誤を続けている最中です。