750万円投じて「美容車」を製作した女性の挑戦 「すべての人に美容室を利用してもらいたい」

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しかし、岩田さんはこのような厳しい条例の中、「個人向けだったら、向き合って1人ひとりとゆっくり時間が取れる。周りの目を気にすることがなく、『カラーもしてもらおうかしら』と気軽に言える環境を作ってあげられる」と、小型の個人向け美容車にこだわり粘り強く交渉を続け、ようやく認可を得るまでに至りました。

障害のある方の雇用促進のために設立された特例子会社「ジョブサポートパワー株式会社」代表取締役の小川慶幸さんは、岩田さんの活動を応援している1人です。

「今は、全体の6割にあたる84人が在宅社員です。働いている社員の中から、『美容室行くのも結構困っているんですよ』という話を聞いたときに、岩田さんのような人がいてくれると、『こういう人がいますよ』と紹介できる。現実に、それでうちの社員がすごく助かっているんです」と小川社長。

「ジョブサポートパワー株式会社」代表取締役・小川慶幸さん(写真:GARDEN Journalism)

「基本的にSkypeを使って仕事をしています。本当はカメラを使えばいいんですけど、音声だけでやり取りを。それはやはり、働く側の女性が、映像になるとそれなりに見繕いが必要になる。そういうことも、通勤だと毎朝やらなきゃいけないんですね。そういうことが在宅だとしなくていいわけですよね。

ただ、そうは言っても、外出したり、時によっては映像で打ち合わせをしなきゃいけないこともあります。そういったときにはきれいでいたいと思っても、なかなか日常生活の中ではご本人の願いが叶わない面もある。

そういった意味で、岩田さんのような人がいて時々そういうサポートをしてもらったり、仕事で東京に出てきたときにサポートしてもらえるということがあったりするだけでも、仕事以上に、出ることに対するすごいモチベーションが上がっていくのはすごくよくわかります。来るのが楽しみだし、安心して来られるみたいな。そういう方がいるっていうだけでも、全然違うと思うんですね」

「美容室は1年に1回、シャンプーも段取りを決めて」

岩田さんに助けられた「ジョブサポートパワー株式会社」社員の1人が、筋ジストロフィーを患い電動車いす生活を送る、上田れいなさん。大阪で在宅勤務をしています。岩田さんと出会うまでは、美容室に行けるのは1年に1回でした。

「美容室に行っても、切ってもらうだけなら何とかなるのですが、シャンプー台に移動しなければいけない。シャンプー台に移れないとなると、なかなか行けるところがなくて。洗うところだけ段差があったり、どうやって扱っていいのか戸惑われたり。

いつも同じところへ行くのですが、昔住んでいた家の近くの美容室なので、電車で1時間くらいかけて行かなければいけないんです。まず朝に身支度で化粧して着替えてと1時間くらいかけてやっていると、準備と移動で4時間くらい消費する。そこからカットをして染めてとすると、美容室は1日仕事なんです。岩田さんに来てもらえなかったら、自分で行くのは1年で1回くらい」

Skypeでコミュニケーションを取っている仕事仲間に会いに東京に出かけることが好きな上田さんは、岩田さんのおかげで安心して東京で過ごすことができるようになりました。

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