ベビーシッターこそ「生産性向上」の切り札だ 経沢香保子氏は「日本人の勝算」をこう読んだ

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2.「従業員教育」の大切さ

社員やシッターさんの教育の重要性についても、すごく考えさせられました。

当社では「キッズライン大学」というシッターさん向けの講座を開設しています。これは乳幼児講座や救命講座など、シッターさんがキャリアを広げるための講座で、皆さん自主的に自己負担で通っていただいています。

強制ではないので通われないシッターさんもいますが、受講しに来られるシッターさんのほうが、平均時給が高い、もしくは平均時給が上がっていくという傾向が顕著に見られます。

本にもありましたが、社会人になってからも勉強しようと思う人は後天的に能力をどんどん身につけていくという流れはいたるところにあるのだと思います。

経営者としては、格差が生まれてしまうのは働いている本人の自己責任だとか、経済原理だと考えてしまうとそこで思考停止になります。経営者には、社会全体を豊かにするという使命の一翼を担っているという意識も必要なのだと思っています。

「実力主義」「成果主義」という言葉をよく耳にしますが、今私がやっているキッズラインは誰か1人が圧倒的な売り上げを作って利益を出すという構造ではなく、むしろ何人もの人々が関わり「コミュニティーを作る」というプロセスが重要なので、中長期的に意欲を出してもらうことの重要性や、長く関わることの大切さ、そしてそのための教育の役割を改めて再認識させてもらいました。

3.過当競争に意味はあるのか

3つ目の学びは、他社との過当競争は無意味だと改めて考えたことです。

実は私は、昔から競合同士が、価格競争や広告競争をして、どっちが勝つのかという考え方が苦手で、企業間で起きる競争の行き着く先について、どこか疑問に思っていました。経営者としては社員を幸せにする義務を負っているので、他社を打ち負かさなくてはいけないという場面もあるのだとは思いますが、もっとみんなが社会全体にとって効率的な経営ができないものかと、つねづね思っています。

日本の人口が減るということは、日本の経済規模がますます縮小することを意味しています。だから、徐々に小さくなっていくパイを奪い合うことにばかり目を向けて、過度な競争を始めてしまうと大切なことを見失ってしまうような気がしていましたが、この本にまさに他国の事例が書いてあって少し道が見えた気がしました。

ベビーシッターが広がらないと「人口減少」は加速する

とはいえ、当社もここ数年スピード感をもって事業の拡大を進めています。しかし、それは他社より早くパイを確保しようという発想ではなく、ベビーシッターという文化が早く広まらないと、日本の人口減少が加速してしまうという危機感からです。

実は、ベビーシッターというのをテーマに事業をスタートするということは、お子様の命を預かるという覚悟ですので、自分の能力が足りているのか不安になって、なかなかできずスタートが遅れてしまったことを後悔しています。その遅れを取り返すべく現在経営努力しています。

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