JR3社&東急、「北海道」観光列車戦略の全舞台裏 運行会社の公募ではなく「車両レンタル」案に

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JR東日本はJR北海道に対して新幹線ネットワークを活用した連携、人的支援、技術支援、観光分野の協力などを行なっている。「基本的には今のスキームで支援を行なっていく」(深澤祐二社長)。車両の貸し出しであれば、この枠組みに含まれると判断した。

JR東日本の観光列車「びゅうコースター風っこ」(写真:IK/PIXTA)

一方、東急の関係者は、「非電化路線での運行経験がない東急が北海道で自ら運行することは考えられない」と言う。また、「運行事業者になっても観光列車だけでは到底採算が取れない。自ら運転士などのスタッフを抱えて運行するには、定期列車を日に何本も走らせないと利益は上がらない」と話す関係者もいる。今回のスキームであれば、運行事業者として運行維持に必要なに固定費がなくなるので、東急の負担は軽くなる。

それでも、東急が旅行商品としてプランを作り、サービスを行うため、東急の関与度は高く、髙橋社長が「チャレンジングだがトライする」と言うほど冒険的な試みだ。質の高いサービスを行うため、東急のクルーが現地に赴くとすれば、滞在費などのコストもかさむ。

詳細が決まっていない部分が多い

今回の発表内容については、詳細が決まっていない部分が数多くある。まず、JR東日本や東急の車両を北海道に運ぶ費用が未定だ。また、ザ ロイヤル エクスプレスは直流電車。JR北海道の路線の多くは電化されておらず、電化されている区間も交流方式のため、そのままでは道内では走れない。機関車に牽引してもらう必要があるが、どのような機関車が使われるかはまだ決まっていない。8両編成のうち何両が北海道で使われるかも未定だ。しかも、どのルートを運行するのか、ツアー参加者がどこに宿泊するかを決めるとなると準備に相当な時間を要する。そのため、今年ではなく来年の運行とせざるを得なかった。

「未来永劫、観光列車を造らないというわけでない」としていたJR北海道に、観光列車を新造する日は意外に早く訪れた。会見から2日後の2月14日、JR北海道は定期列車としても活用できる観光列車を2019年9月ごろに既存車両の改造で2両、2020年秋に新造で5両編成を2本、導入すると発表した。2日前の会見では、観光列車不足に泣いていたように見えたJR北海道だが、自前でも準備するとなると、むしろ攻めに転じたように見える。

日本版オープンアクセスの実現ともいうべき画期的な試みは今回は見送られたが、「線路を開放して複数の事業者が魅力的な観光列車を走らせるというスキームをもう検討しないというわけではない」とJR北海道の担当者は語る。北海道だけでなく日本全国で観光列車の大競争時代がやってくれば、今までとはまったく違う乗車体験が待っているかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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