この経済本がすごい! 2008年ベスト経済・経営書 エコノミスト、アナリスト、学者、評論家など61人に2008年(2007年12月から2008年11月15日まで)に刊行された本についてアンケートを実施。印象に残った経済・経営書など3点を挙げてもらい、1位に5点、2位に4点、3位に3点をつけて集計した。上位15位(22冊)を紹介する。
■15位
『アフリカ・レポート』
松本仁一 著
岩波書店/735円
アフリカは世界で最も人口増加率が高い地域であり、総じて資源に恵まれているにもかかわらず、なぜ経済が発展せず、貧困に苦しむ人が多いままなのか。この問題をジャーナリストの視点から解説した本。主に各国政府の態度に原因があることが明らかにされているが、このような問題点だけでなく、すでに進んでいる自立への取り組みにも触れることで、バランスの取れた内容となっている。方向性や解決策のヒントも得られる。 (花田 普)
『「歳出の無駄」の研究』
井堀利宏 著
日本経済新聞出版社/1995円
「歳出の無駄をなくせ」と多くの人が発言するが、現実逃避の願望という面がある。著者は「相対的に無駄な歳出かどうかは、歳出の便益をコストと相対的に比較することで、初めて判断できる。そのためには、政府の予算編成に国民がコスト意識を持つことが不可欠である」「絶対的な無駄ばかりやり玉に挙げないで、政府の歳出全体の内容を見直すことで、歳出全体の改革も進む」と主張している。(宅森昭吉)
『格差と希望』
大竹文雄 著
筑摩書房/1890円
中身の経済学的な評価は他の人にお任せする。私がいちばんよいと思ったのは、発表当時の見方(もとは日経新聞や『週刊東洋経済』に掲載された)と現在の見方を両方きちんと載せているところだ。
言いっ放しにしない、繰り返し検証する。これは学者にとって当たり前の態度だが、実際にやるのは難しい。その中で、過去も現在も忘れないことの大切さを教えてくれた本でもあった。論説集としては異例なまとめ方だけに、編集者の功績も多としたい。(佐藤俊樹)
『日本は財政危機ではない!』
高橋洋一 著
講談社/1785円
財務省寄りの御用学者とは一線を画した専門家による財政の本というのは、初めてではないだろうか。アウトサイダーにはわからない財政の仕組みが詳細かつ平易に書かれている。今度は、財務省と立場を同じくする財政学者による明快な反論の書を期待したい。(安達誠司)
『創造的破壊とは何か 日本産業の再挑戦』
今井賢一 著
東洋経済新報社/3360円
産業組織論の大家である筆者が「創造的破壊」をキーワードに、日本産業再生の処方箋を探るべく、日本産業の課題と可能性を論じた書。
シュンペーターの「新結合」をベースに、歴史学、認知心理学などさまざまな専門知を駆使した奥行きの深い思索が展開されている。著者自身が体験・関与した具体的な事例も豊富に引用されている。(増田貴司)
『貨幣の経済学』
岩村 充 著
集英社/2415円
「貨幣の価値はどのように決まるか」という問いについてあらゆる角度から分析する。貨幣の「本位制」について、アンカーの条件を「貨幣価値の変動にかかわらず価値が認識できる資産であること」とし、国債を準備資産にする中央銀行モデルを提唱する。世界恐慌を防ぐための財政出動で、各国の国債発行規模が大きくなる中で、状況をどのように管理していくかのヒントになる。 (藤 和彦)
『テロの経済学』
アラン・B・クルーガー著
東洋経済新報社/2100円
本書はテロリストたちの教育水準が非常に高く、また出身階層も裕福であることを示している。貧しさと教育が不足しているからテロに走ったのではない、実にさまざまな動機(組織への使命感、政治的・宗教的信条など)によって行為に及んだのである。(田中秀臣)
『中東激変』
脇祐三著
日本経済新聞出版社/2100円
中東地域、特に湾岸諸国の近年の発展について、その内容と背景を、できるだけ具体的かつ平易に解説している。特に経済的、経営的な視点を中心として、最近の情勢を読み解いている点が出色であり、その意味では貴重な存在である。(野神隆之)