この経済本がすごい! 2008年ベスト経済・経営書 エコノミスト、アナリスト、学者、評論家など61人に2008年(2007年12月から2008年11月15日まで)に刊行された本についてアンケートを実施。印象に残った経済・経営書など3点を挙げてもらい、1位に5点、2位に4点、3位に3点をつけて集計した。上位15位(22冊)を紹介する。
■1位
『資本主義は嫌いですか』
竹森俊平 著
日本経済新聞出版社/1890円
米国の住宅バブルが世界経済の高成長をもたらした
サブプライム危機が世界経済危機となった状況を、最新の経済理論の活用により分析している。理論の説明はわかりやすく、その使い方はまことに手際がよい。バブルについて、18世紀フランスのミシシッピー・バブルから始める語り口は魅力的だ。サブプライム問題の見事な解説の後に、住宅価格上昇の解明に移る。低金利がその主因だが、それはグリーンスパン前FRB議長のせいではなく、アジアの貯蓄超過によって生まれた実質低金利によるものならどうなるのか。その帰結についての議論が刺激的だ。実は2005年の米国ですでに、今なされているといっても誰も疑わないような議論がなされていた。その洞察力には驚く。
最後は流動性という言葉をめぐって展開する。流動性が高いとは、おカネが借りやすい状況というよりは、資産を売りやすい状況だと説明する。資産を売りやすいとは、資産を買いたい人が多い状況だ。しかし、買いたい人がいなくなったとき、流動性を高めるのは至難の業となる。本書は、金融危機についての深い洞察に満ちている。(原田 泰)
■2位
『現代の金融政策』
白川方明 著
日本経済新聞出版社/6300円
理論と実務が融合した優れた金融の教科書
かつての金融危機下、マネーサプライ論争、ゼロ金利政策の是非、量的緩和政策などの論争を目の当たりにした。それらは、もはや過去の出来事であるかもしれない。
しかし、これらの重要な議論の成果がこのまま雲散霧消していくのはいかにも惜しい。かつての論争をそのまま整理したものではないかもしれないが、金融政策の理論と実務を詳しく丁寧に、わかりやすく書かれた本書は、金融市場への貴重な貢献として受け継がれるべきものと思われる。(米山章吾)
■3位
『大暴落1929』
ジョン・ケネス・ガルブレイス 著
日経BP社/2310円
大恐慌についてのガルブレイスの名著
金融市場においていわゆる「バブル」が発生したときの人間の考え方や行動が、80年前の大恐慌のときから大きくは変わっていないことに失望させられる。しかし、その反面、今後何らかの形でバブルが発生したとき、しかるべき対応を取れるようにするために、この本から学べることは非常に多い。今回の金融危機と大恐慌期の状況を冷静に比較するための資料としても非常に有用である。 (花田 普)
『なぜ、アメリカ経済は崩壊に向かうのか』
チャールズ・R・モリス 著
日本経済新聞出版社/1890円
米国発金融危機の原因を鋭く分析する
原題は「1兆ドルのメルトダウン」。予言的な原題を的中させたことが、本書の価値を高めた。米国政治の中で20~30年単位で周期的に繰り返すリベラリズムと保守主義の間の思想的な振れの狭間の中で、危機が起きたとする背景説明がわかりやすい。
「パーティーが盛り上がった時にパンチボウルを取り上げるのが中央銀行の仕事」にもかかわらず、「パンチボウルに何度も飲み物を注ぎたした」FRBにも責任があると鋭く批判。証券化商品のわかりやすい解説も一般読者にとってありがたい部分。(小玉祐一)
■5位
『すべての経済はバブルに通じる』
小幡 績著
光文社/798円
資本主義であるかぎりバブルは避けられない
金融市場の動きを克明に追いながら、これまでのバブルに関する通念をすべて否定し、「リスクテイクバブル」としての21世紀型バブルの特徴をあぶり出していく。ガルブレイス著『バブルの物語--暴落の前に天才がいる』(ダイヤモンド社)を超える現代のバブル論。(米山秀隆)
■6位
『暴走する資本主義』
ロバート・B・ライシュ 著
東洋経済新報社/2100円
超資本主義という概念で現代を分析
1970年代から資本主義は危機に陥り、超資本主義「スーパーキャピタリズム」の時代に入った。そこでは投資家と消費者の力が強まり、会社はそれに対して相対的に弱くなり、会社間の競争が激しくなった。その対策として登場したのが新自由主義であったが、真の危機対策にはならなかった。
この超資本主義の時代になって、世界的にデモクラシーが衰えるとともに、民衆の生活も変わった。格差社会も地球温暖化もその産物であった。アメリカの経済学者による現代資本主義批判である。 (奥村 宏)
『市場リスク 暴落は必然か』
リチャード・ブックステーバー 著
日経BP社/2520円
人間は市場リスクという悪魔をつくってしまった
金融商品のリスク管理の長い経験を持つ著者だけに、事例が具体的で迫力がある。結局、商品を単純化しレバレッジを減らすことが金融市場混乱収束への処方箋だという。広範な経験に裏付けられた意見だけに説得力がある。原題は、「A Demon of Our Own Design」。直訳すれば、「われわれがつくり上げた悪魔」となる。創造的な金融商品をつくり上げたものの、自分たちがコントロールできないリスクを発生させてしまった現在の金融市場の混乱をうまく表現している。(大槻奈那)