この経済本がすごい! 2008年ベスト経済・経営書 エコノミスト、アナリスト、学者、評論家など61人に2008年(2007年12月から2008年11月15日まで)に刊行された本についてアンケートを実施。印象に残った経済・経営書など3点を挙げてもらい、1位に5点、2位に4点、3位に3点をつけて集計した。上位15位(22冊)を紹介する。
■8位
『なぜグローバリゼーションで豊かになれないのか』
北野 一 著
ダイヤモンド社/1890円
米国型経営導入が勤労者を貧しくした
著者はグローバリゼーションによって日本の企業が投資家から高い資本コストを要求されていることが、労働分配率の低下をもたらし、日本人が豊かさを実感できない原因になっていると指摘する。資本コストを下げるために、企業は自己資本を減らし負債(銀行借り入れ)を増やすべきとの提案は興味深い。
また小泉政権下で外国人投資家の日本株買いが増えたのは、構造改革への評価ではなく、米国の金融政策の方向性が影響していたとの分析も面白い。(北田英治)
『波乱の時代 特別版』
アラン・グリーンスパン 著
日本経済新聞出版社/525円
前FRB議長が「その後」を語る
この特別版は2008年9月出版の原著ペーパーバック版に追加されたエピローグの部分の翻訳である。「投機の波を効果的に抑えることはできないので、最善の方法は市場がいつも柔軟性と回復力をもち、保護主義や硬直的な規制にしばられておらず、危機のショックを吸収し緩和できるようにしておくことだ」という市場メカニズムを尊重する主張に共感する。(宅森昭吉)
■10位
『禁断の市場』
ベノワ・B・マンデルブロ リチャード・L・ハドソン 著
東洋経済新報社/2520円
金融市場では暴落は避けられない
「フラクタル」の概念を体系化したマンデルブロが、その考え方を金融市場で応用し、市場の動きを説明する。従来の標準理論で考えていた価格の変動幅の分布とは異なる分布を想定し、大きく外れた動きが起こる頻度が高いことを前提としたモデルを示す。それにより現実をより正確に説明できるとする。金融市場では、「常軌を逸した出来事」が「かなり頻繁に」起こっているのに、暴落の可能性が過小評価されていると指摘する。(鹿野達史)
■11位
『さらば財務省!』
高橋洋一 著
講談社/1785円
「霞が関」を知るガイドブック
「霞が関埋蔵金」の存在を予言(?)した、08年のベストセラー。上げ潮派から見た「経済財政戦記」としても、「霞が関」を知るためのガイドブックとしても興味深く読むことができる。本書が刊行された時点では「伝説」にすぎなかった埋蔵金が政府公認の「実話」になった、この1年間の経緯を振り返りながら再読するのも面白い。(中里 透)
『格差はつくられた』
ポール・クルーグマン 著
早川書房/1995円
オバマ大統領で中産階級は復活するか
米国の格差拡大は、グローバリズムのせいではなく、レーガン政権以降の共和党政権を支える保守派が政治を支配し、高所得者・資産家層を優遇した政策が原因だとみる。著者はオバマ氏の格差是正のための変革と進歩派的な政治運動に期待を寄せている。(土居丈朗)
■13位
『エコノミストたちの 栄光と挫折』
竹内 宏 著
東洋経済新報社/2100円
「路地裏」エコノミストが語る戦後経済史
エコノミストの活動を振り返るとその背後にある日本経済の姿も見える。円高や石油ショックの頃の記述は今にも通じる共通点があって勉強になる。バブル崩壊を予想した銀行エコノミストがいたことも興味深い。時代や環境が異なるとエコノミストのイメージも今とはだいぶ変わってくるようだ。(鈴木明彦)
『官僚亡国論』
田中一昭 著
講談社/1575円
官僚も働きがいのある公務員制度を提言
公務員制度改革が話題になる中、関連本が多く出版されている。本書もその一つだが、「行政改革のプロ中のプロ」として官僚時代と退官後の今も現役として活躍を続ける著者だけに、その重みは類書をしのぐ。私が敬意を表するのは、行政改革に対するスタンスである。国民の利益を第一に置きながらも、ただ官僚をバッシングする行革ではなく、官僚も働きがいを持つ公務員制度設計を考えているからである。(中野雅至)