最低賃金の引き上げが「世界の常識」な理由 「韓国の失敗、イギリスの成功」から学ぶこと

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唯一言えるのは、同じ国の同じ業種で、企業間で生産性の大きな違いが生じているということは、明らかに経営者の質の善しあしが、生産性の高低を左右しているということです。生産性向上は経営者の質にかかっていることは、研究によって明らかにされています。

なので、国全体の生産性を高め、経済を成長させるためには、生産性の低い企業の経営者をどう動かし、生産性の向上にあたらせるかが、1つの重要なポイントとして浮かび上がるのです。

国が政策として、企業経営者に生産性を上げるよう誘導する、その手段として最低賃金の引き上げが重要なポイントになります。なぜなら最低賃金の変動は、全企業がその影響を免れないからです。

最低賃金が上がることによって人件費が増えると、経営者は対応せざるをえなくなります。会社のビジネスモデルを変えて、生産性を高めなければなりません。インフレと同じ原理です。最低賃金で働く人を多く抱える生産性の低い企業ほど大きな影響を受けますので、経済の「底上げ政策」と言えます。

この政策はいくつかの国で実施され、期待通り、生産性は向上しました。最低賃金の変動がその国の経済にどのような影響を与えるか、その事例として最も研究が進んでいるのが、イギリスの例です。

最低賃金引き上げの成功例、イギリス

イギリスは1999年に最低賃金を導入しました。実は1993年からの6年間は、イギリスには最低賃金が存在していませんでした。つまり、1999年の導入は「新規」導入ということになるので、最低賃金導入による経済効果を研究するためには格好の、雑音のないデータが手に入るという好条件がそろっていました。そのため、多くの研究者がイギリスの事例をこぞって研究テーマに選んだので、数多くの分析がされたのです。

また、この事例の研究が進んだのには、当時のイギリスの政治事情というもう1つ別の理由がありました。イギリスの最低賃金の導入は、労働党のブレア政権のもとで実現しました。もともとブレア首相は最低賃金の導入と引き上げを公約に掲げて選挙を戦い、政権を奪取したという経緯がありました。

最低賃金導入に反対だった保守党は、ブレア政権を攻撃する材料として、最低賃金導入のアラを探すべく、多くの研究者に分析を依頼しました。その結果、イギリスの事例は徹底的に研究されることになったのです。反対派の期待もむなしく、イギリスでは最低賃金の導入により、予想以上に大きな成果が生まれました。

イギリスでは1999年から2018年まで、毎年平均4.17%も最低賃金が引き上げられ続けました。この間、最低賃金は実に2.2倍になったにもかかわらず、インフレには大きな悪影響もなく、生産性も上昇しています。2018年6月の失業率は4.0%で、1975年以降の最低水準です。1971年から2018年までの平均である7.04%を大きく下回っています。

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