ハンガリーでも痛手、“新興国の王者”スズキに山積みの地政学リスク
「どうもおかしい」。2008年9月、鈴木修スズキ会長の“勘ピューター”が動いた。「科学的根拠はない。僕の経営はカンだから。でも、資料や人の話でどうも米国がおかしいから、在庫を減らそうと」。
スズキの“玄関”である静岡県御前崎港からの4輪車輸出は、10月で1・3万台と前年同月に比べ1割減少。同様に、昨年は10万台輸出する月もあった清水港からの2輪車の10月輸出は5・4万台と25%減。1~10月平均でも15%減で推移している。
バランスシートもスズキの素早さを語る。08年3月末比較でみれば、在庫を減らしているのは大手ではスズキ1社のみだ(右グラフ)。「もっと減らせと言っている。造るのはいつでも造れる。米国西海岸でも15~16日で(製品は)届く。海を越えていくなんて大げさに考えて(在庫を厚く持って)いた経営が間違っていたということですよ」(同)。
ここ数年、鈴木会長は事あるごとに「急成長のリスク」を口にするようになった。「売り上げ1兆円になるのに12年、2兆円に12年かかったが、この5年間は2500億円ずつ伸び、3兆5000億円になった。社員は『この程度の仕事でも会社は伸びる』と思っている。今は経営を見直すチャンス」(同)。たとえばエンジンの排気量。下表のように今のスズキが100cc刻みで各種取りそろえているのも会長は気に入らない。「基本技術は一緒でも、それぞれにテスト等の費用がかかる。こういう問題も潰していかないと」。
11月下旬の新型「アルトラパン」発表会が傑作だった。ラパンはウサギの意味で、フロントエンブレムやランプなど車体のあちこちにウサギマークが付いている。技術者がモデルチェンジを機にこのマークを刷新したことに触れた会長は「マーク変えたって、利益なんか出ない」と斬ってみせた。ケチケチ経営ここに極まれり。危機の時代に鈴木式経営はひときわ光を放っている。