トヨタ「ヴィッツ」、発売8年超でも売れるワケ 2018年の販売ランキングでは9位に入った

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顧客層を調べると、アクアの法人所有者が27%であるのに対し、ヴィッツは34%という点も特徴的だ(2018年9~11月の販売調べ)。上記の価格帯や、小回りのよさなどといった日常的な使い勝手で上回るヴィッツが、法人の生産財として移動の便に役立っている姿が見えてくる。

アクアが、トヨタ系列の全店舗で販売されているのに対し、ヴィッツはネッツ店でのみの販売だ。にもかかわらず、永年にわたり堅調な販売実績を維持し続けているのは、日常的な使用に適したきめ細かい仕様の設定と、経費の償却資産として法人などで定期的に代替えが行われる傾向の強い優良顧客の満足度の高さが実を結んでいるのではないか。

トヨタには、約117万円からという価格の「パッソ」(ダイハツ製のOEM車)もあるが、最小半径が4.6メートルからと、ヴィッツより小型なのに小回りではヴィッツが上回る。また運転した際には、やはりグローバルカーとしての“格上の感触”もヴィッツにはあるはずだ。

消費者の目線は5ナンバーに

ヴィッツの商品性や、販売実績から見えてくるのは、やはり国内では5ナンバー車への期待が大きいということだ。2018年の販売上位10台は大半が軽自動車や5ナンバー車で、3ナンバー車はプリウスのみ。自販連の登録車のみの集計でも上位10台のうち、3ナンバー車はプリウスとセレナだけで、それ以外は5ナンバー車が占める(ただし、セレナはハイウェイスターやe-POWERが3ナンバー車となる)。

新車が発売されるたびに車体寸法が大型化し、3ナンバー車が当たり前の市場となっている。だが、多くの消費者が5ナンバー車のなかからよりすぐっているのがわかる。理由は、5ナンバー車が日本国内でもっとも扱いやすい大きさだからだ。

軽自動車人気も、単に価格や税金などが安いからだけとはいえない。1960年代の初代トヨタ・カローラや日産サニーといった小型車の車体寸法は、現行の軽自動車規格とほぼ同じである。日本の自家用車の普及は、それら初代カローラやサニーが担い、そして道路など交通の社会基盤が整えられていった。今日、たとえばコインパーキングに止められているクルマを見ると、3ナンバー車が枠いっぱいに駐車し、どうやって乗り降りしているのだろうかという状況を目にする。駐車場の枠も、5ナンバー車を基本とするからだ。

自動車メーカーは、衝突安全性能の向上や、造形的な見栄えのよさで3ナンバー化は商品性の向上につながると言うが、消費者の目線は別にある。それが、販売実績に現れている。

また、小型車だからといって、可愛らしく見える造形を消費者が求めていない様子もわかる。ノートを筆頭に、アクアもプリウスも、あるいはヴィッツも、可愛らしい造形ではない。かつて、3代目マーチは、ライトの配置などで可愛らしく見せたが、国内はともかく海外では子供じみていると不人気で、現行マーチの造形になったという話も耳にする。

国内はもとより、海外における消費者の期待に真っ直ぐ応えているのがヴィッツといえるだろう。そしてWRCでのヤリスの健闘振りを楽しみに観戦できるのも、メーカーの努力とヴィッツを愛用し続ける顧客の賜物といえそうだ。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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