偽ニュースは民主主義を壊す強大な「兵器」だ 煽情的なネット情報は「一歩ためる」構えを

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とくに中国の影響力が大きい。中国は意図的に人民元の為替を操作するだけで、世界の金融市場を大きく動かせる。実際に中国当局は2015年8月に米ドルに対して人民元の切り下げを行い、世界中のマーケットに影響を与えました。加えて中国の巨大IT企業、アリババとかいくつかのグループを動かせば、ものすごいインパクトを与えられる。そうするとほかの国への影響は計り知れません。

津田ではどうするか。現状の対策は4つです。AI技術を使ってファクトチェックをできるようにする、悪意のある情報発信者のサイトに広告収入が入らないように「経済制裁」する、発信者情報開示請求を改善する、そしてマスメディアがファクトチェックを継続的に行っていくことです。

どれも特効薬ではなく、対症療法しかありません。加えて、日本は先の4要素からいうと大変な脆弱性を抱えてはいますが、まだ地上波テレビと新聞の影響力が相対的に強い。新聞の発行部数は、世界でまだまだナンバーワンだし、地上波テレビが影響力を持っている。僕の現状認識はマスメディアが他国と比べてまだ強いことが、結果的にこのハイブリッド戦の影響を小さくしているんじゃないかということです。

マスメディアの影響力はまだ強い

一田その点は、結構あるような気がしますね。『民主主義の死に方』の著者、スティーブン・レビツキー氏らが書いていたのは、民主主義は、実は昔からポピュリズムの脅威にさらされていたけれど、それからどうやって守っていたかと言うと、制度化されていない、法律とか制度にはなっていない人の認識、相互的寛容と自制心があったからだと指摘しています。

一田和樹(いちだ かずき)/東京都生まれ。経営コンサルタント会社社長、IT企業の常務取締役などを歴任後、2006年に退任。2009年1月より小説の執筆を始める。2010年、長編サイバーセキュリティミステリ『檻の中の少女』で島田荘司選第3回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、デビュー。サイバーミステリーを中心に執筆(撮影:大澤誠)

津田一方で、僕はジャーナリストでもあるので、表現の自由をすごく重要なものと考えています。インターネットは当然、表現の自由を最後まで保護してくれる自分たちの最後のツール。その意味では、非常に悩ましいところもある。規制をかけすぎると、逆に自分たちの言論が規制されてしまう。ではGoogleやFacebookに「対策をお願いします」と言ってもどこまで期待できるのか。正直「出口なしだな」という感じです。

一田そういう意味では、今は白紙の状態に近くて、どこも打つ手がない。だからこそ建設的なジャーナリズムを考えるうえで、新しい社会やメディアの仕組みがどうあるべきかという議論をやりやすい時期だと思います。

フェイクニュースの実態を一般の人に知ってもらうには事例を一つひとつ紹介するのがわかりやすい。1個ずつ事例を取り上げて、「実はこれは単なるフェイクニュースというだけではなくて、市民を抑圧するためのメディアの弾圧です」とか知らせていく。あとはやはり予算と組織を充実させることです。日本にはフェイクニュースと世論操作に関する研究組織がほとんどありません。

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