また、2000年代以降の不完全雇用期に新卒期にあたり、就業機会に恵まれなかった世代が、新たに経験を積みスキルを高める機会も広がっただろう。
雇用回復の初期段階では、新たに雇用された労働者は、職場環境に適応するのに時間がかかる。また高齢者など短時間就業者も増えたことが、2013年以降の労働生産性の伸びを抑制している(働き方の多様化が認められるようになったという側面もある)。
携帯端末の機能向上や通信環境の改善などで、短時間労働者の生産性を高める環境がより整う可能性はある。幅広い就業者のスキル向上には一定程度時間が必要で、労働生産性の高まりとしてあらわれるには時間がかかる。金融財政政策が景気や雇用に及ぼすまでの期間よりも、就業者が就労経験を経てスキルを積み上げるのに、より長い時間を要するため、2017年までに観測される労働生産性が低いのはやむをえない部分があると思われる。
日本の生産性を評価するには、10年程度の期間で評価する必要があるだろう。また、日本では、人手不足が深刻になっているとされるが、インフレ・賃金が十分上がらない現在の状況は、労働市場が「正常な状況になった」と位置づけることがより適切だと、筆者は考えている。「正常な労働市場の状況」が長期化することで、企業による正社員化などの「囲い込み」によって、企業が労働者のスキルを高めるインセンティブが高まることを通じて、就労経験が乏しい就業者のスキルが底上げされる余地がある。
もちろん、筆者は、生産性のすべてが金融財政政策などの総需要安定化政策で説明できるとは考えていない。総需要不足が完全に解消されれば、経済の供給側が生産性の趨勢を決定する。仮に、不要な規制や公的部門の民間への不要な介入などが、民間部門の生産性を抑制しているのであれば、規制緩和などを進めることは必要である。
また、安倍政権が進めているTPP促進などの自由貿易推進政策は一貫しており、生産性を高める政策は一定程度実現している。ただ、過去5年の労働生産性の伸びが示すように、TPP促進などの政策が、実際に目に見えるかたちで労働生産性や経済厚生を高めるにはかなり長期の期間が必要ということなのだろう。
消費増税で生産性向上が阻害される恐れ
一方、日本のように長期デフレと不完全雇用を抜け出す回復途上にあり、インフレ率が高まらない経済状況では、金融財政政策の手を緩めずに総需要を高めることを通じて、将来の労働生産性を底上げする余地がある。金融財政政策を徹底することで、脱デフレを確実にして長年にわたる不完全雇用や総需要不足の解消を果たし、GDPのさらなる伸びを実現する。その帰結として、タイムラグを伴い日本の労働生産性の伸びが、今後高まっていく可能性があるのではないか。
失業率低下とともに就業者が増えたことを逆手にとって、労働生産性が低いことを強調するのは、一面的な見方だと筆者は考える。それよりも筆者は別の観点で、生産性が高まらないリスクを警戒している。
2019年10月からは日本では消費増税が行われ、財政政策の緊縮度合いが強まる。消費増税による個人消費は大きく減速するとみられ、脱デフレ完遂のタイミングが遅れかねない。大規模な金融緩和の正常化を遅らせるだけではなく、今後高まる余地がある日本の生産性向上が阻害されるリスクがあるのではないだろうか。
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