QBハウスが「1000円カット」をやめる事情 2月1日、デフレ優等生が値上げに踏み切る

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理美容室は全国に36.8万店ある(厚生労働省調べ)。コンビニエンスストア(5.6万店、経済産業省調べ)の6倍超で今も漸増傾向だが、理美容師の新規免許登録は1999年の3.3万件から2.0万件に減少。平均年収が全産業平均の432万円(2017年)に対して300万円を下回るとされるほか、長時間労働などを理由に理美容師を目指す人材が減っている。厚生労働省によると、理美容師を含む「生活衛生サービス」の有効求人倍率は4.55倍で、全産業平均の約3倍だ(2018年11月)。

「スタイリストをいかに集めていくか、退職率を下げるかが課題だ」

キュービーネットの北野泰男社長は、そう危機感を語る。スタイリストの採用と育成、そして待遇改善に向けた資金確保が、カット値上げを決断した最大の要因なのである。

同社は独自の研修制度「LogiThcut(ロジスカット)」を、スタイリスト育成事業として展開している。専門学校の卒業生やブランクのある元・理美容師、未経験者を対象に、カットや接客の技術を指導し、6カ月で店頭デビューさせることを目指す。拠点は東京・大阪・名古屋に加え、2018年7月には福岡でも開校した。値上げによる増収分を原資に、投資を加速する公算だ。

しかし、値上げが増収につながる保証はない。

キュービーネットは値上げによる影響で、2019年2月~6月の客数を前年比6%減と予想、「最短1年、遅くとも3年で元の水準に戻す」としている。ただ、同社が先鞭をつけたヘアカット専門業態は、新規参入が相次いでおり群雄割拠だ。値上げをせずにカット1080円を継続する同業他社も少なくない。

問われる「1200円」という価値

店舗数で業界3位級のジャパンプロデュースサービスが展開する、「カットファクトリー」もその1つだ。同社の店舗管理責任者を務める林田護氏は、「『1000円カット』が1つのブランド。現状で値上げは考えていない」という。2月以降は業界首位のキュービーネットと約100円の差が生まれるが、「優位に立てるのならありがたい」と言い切った。

そのうえライバルは、ヘアカット専門業態だけではなくなる。

アルテ サロンが手がける「チョキペタ」のカット料金は1200円。ただし同店では、カラー(1800円~)やトリートメント(500円)などのサービスも提供している。「QBハウス」は今回の値上げによって、こうした店舗とも同じ土俵で戦うことになるのだ。近隣に同価格帯の競合店がある場合、来客者にノベルティ(記念品)を提供するなどの対策を検討しているものの、効果は未知数である。

「1000円カット」のブランドを捨てたキュービーネットの成長はどこまで続くのか。今後はスタイリストの技術向上など、1200円分の”価値”を提供できるかが再成長のカギとなる。

中山 一貴 東洋経済 記者

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なかやま かずき / Kazuki Nakayama

趣味はTwitter(@overk0823)。1991年生まれ。東京外国語大学中国語専攻卒。在学中に北京師範大学文学部へ留学。2015年、東洋経済新報社に入社。食品・小売り業界の担当記者や『会社四季報 業界地図』編集長、『週刊東洋経済』編集部、『会社四季報』編集部、「会社四季報オンライン」編集部、『米国会社四季報』編集長などを経て2023年10月から東洋経済編集部(編集者・記者、マーケティング担当)。「財新・東洋経済スタジオ」スタッフを兼任。

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