文藝春秋がノンフィクション作品に拘る真意 「冬の時代」だがやり方次第でまだまだ売れる

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――では、ノンフィクションが活況を呈していた時代となると、どこまでさかのぼらなければならないでしょうか。

1960年代の後半、アメリカでトム・ウルフ、ゲイ・タリーズ、デイヴィッド・ハルバースタムといったスター・ノンフィクション作家があらわれ「ニュージャナリズム」といわれました。

飯窪成幸さん/株式会社文藝春秋常務取締役。週刊文春編集局、ノンフィクション編集局担当。文春文庫局、文藝出版局統括を担当(写真:news Hack by Yahoo!ニュース)

日本でもそれを受ける形で1970年代になると柳田邦男さんや立花隆さん、本田靖春さん、沢木耕太郎さんといった優れた書き手が、ノンフィクションの作品を次々と発表していった。さらに1980年代には猪瀬直樹さん、佐野眞一さん、吉岡忍さんらを主として団塊の世代のノンフィクション作家たちが台頭し、一時は「ノンフィクションの時代」といわれました。

1980年前後に大学生だったわれわれの世代には沢木さんの存在は大きかった。『深夜特急』(新潮社)は大きなブームを呼び、いまでも若い世代に読みつがれています。今回、「ノンフィクション本大賞」を受賞された角幡さんも、おそらく沢木さんの影響を受けていると思います。入社試験のとき『深夜特急』を読んで、ああいう本を作りたいと思い編集者を志したという学生が必ず何人かいます。

――現在、具体的な発行部数で見た場合、出版社としてはどのくらい売れればヒット作と言えるのでしょうか。

初版1万部刷れればいいですが、5000部、6000部からスタートする作品も少なくありません。これは文芸書も同じです。東野圭吾さんや宮部みゆきさんのようなベストセラー作家は別ですが、文藝の場合は新人だと4000~5000部からスタートも珍しくありません。

一度でも重版がかかればまずは合格です。増刷を重ね、トータルで3万部いけばノンフィクションでは立派なベストセラーだと思います。10万部、20万部と売れるノンフィクション作品を夢見ますが、現状のハードルは非常に高いですね。

「ノンフィクション」はもう時代にそぐわない?

――そうした冬の時代において、Yahoo!ニュースが新たに「ノンフィクション本大賞」を開設したことを、どのように捉えていらっしゃいますか。

うれしい取り組みだと思います。ネットニュースサービスが主催し、本屋大賞に携わる書店員の方が作品を選ぶ。普段はあまりノンフィクション作品を読まない若い層に、その面白さが伝わるきっかけになれば、これほど素晴らしいことはありません。

次ページ第1回の受賞作は角幡唯介さんの「極夜行」
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