文藝春秋がノンフィクション作品に拘る真意 「冬の時代」だがやり方次第でまだまだ売れる
――その第1回の受賞作は、さきほどでた角幡唯介さんの『極夜行』。探検家である著者が、数カ月に渡って太陽が昇らない北極圏を旅し、真の闇を体験することで本物の太陽を見ようと試みる、壮大かつ骨太な作品でした。
この作品は2018年2月に発売されて以来、地道に増刷を重ねていましたが、今回の受賞でさらに大きく部数を伸ばしています(※2018年12月の時点で6刷、4万6000部)。こうした本格的ノンフィクション作品が受賞し、それがきっかけでさらに多くの読者に読まれているのはうれしいことです。
――長くこの業界に携わってこられた飯窪さんから見て、角幡さんはどのような書き手ですか。
優れた冒険家であり、かつ書き手としても傑出している、ノンフィクションの分野における期待のホープでしょう。独自の着想から「21世紀の新しい冒険記」を生み出し続けている稀有な作家です。文章も素晴しい。それに加えて、イケメンなのがいいですよ(笑)。冒険記のあいまにプライベートなエピソードが入るのが、新鮮です。
若い世代にもいかに興味を持ってもらえるか
――やはり情報の接点がインターネットだけに偏りがちな若い世代をいかに取り込むかが、ノンフィクションの最大の課題ですね。
そうですね。だからこそ、ネットニュースサービスがノンフィクションを対象としたコンペティションを主催する意義は大きいと感じます。今回の「極夜行」は、「文春オンライン」で連載されたものでした。ノンフィクションの書き手がウェブメディアに作品を提供し、編集者も一緒になって今までと違った読者層に訴えかける努力は必要なことです。
実は個人的には、「ノンフィクション」という言葉が時代にそぐわなくなってきているように思っています。このジャンルの面白さを伝えるもっと適切なネーミングはないのでしょうか。ノンフィクションとは「フィクションではないもの」ということでしかない。ルポルタージュもドキュメンタリーも、実用書も自己啓発本も、小説以外のすべてがノンフィクションのジャンルに含まれる。とくに読書慣れしていない若い層にはわかりにくいネーミングになっているのではないでしょうか。