前澤社長の「月旅行」批判する人に欠けた視点 「月に行くなら社員の給料を増やせ」は的外れ
少ない資産で多額の利益を出している……ここまでの説明で理解していただけたかと思うが、ゾゾは171億円程度の純資産しか保有していないにもかかわらず(※)、時価総額は6800億円に達する。これは、ただ171億円の資産を抱えている「器(うつわ)」として会社があるのでなく、株式市場で投資家から「ゾゾ」という価値観やブランド、集団が高く評価されていることを表している。
つまり6000億円を超える純資産と時価総額の差額は高い利益率と将来の成長、そして前澤社長に対する株式市場の評価が数字となって表れたものということになる。そして、もしほかの企業がゾゾを買収した場合は、この差額は決算書に「のれん」という項目に無形の資産として計上される。無形なので形もなく目にも見えないが、そこに確実に存在するのがブランド力である。
決算書にひらがなで表記される項目は珍しいが、のれんはお店の入り口にかかっている「暖簾」から転じて、企業としてのブランド価値・超過収益力を表す。前澤氏が月に行けるほど多額の資産を築くことができた理由はまさにここにあると言える。
ゾゾの死角
もちろんゾゾに死角がないわけではない。昨年7月につけた最高値の4875円から株価は大幅に下落し、本稿執筆時点で半分以下となっている。時価総額は1兆円を大きく超えた時期もあったが現在では前述のとおり6800億円、前澤氏もその影響で数千億円の個人資産を減らしている。
昨年7月から年末にかけた大幅な株価下落は体型を測定する「ゾゾスーツ」の誤算も影響している。ゾゾスーツの開発・生産に時間がかかり、配布開始後はゾゾスーツと、それを利用したPB(プライベートブランド)のオーダースーツの生産と販売も大幅に遅れ、前澤氏は謝罪に追い込まれている。
ゾゾスーツの開発に苦労していたことは経済ドキュメンタリー「ガイアの夜明け」(テレビ東京)でも昨年放送されている。発注先企業と開発の遅れについて前澤氏自身が英語で激しいやり取りをしている様子が見られた。
その後、ゾゾスーツの配布予定数は1000万着から300万着へと大幅に減らした。そしてゾゾスーツは体型のサンプルデータ収集に使って、ゾゾスーツ無しでも注文が可能な状況にすると大幅な路線変更をする方針も発表した。株価の下落は株式市場全体の冷え込みがあるとはいえ、これらゾゾの個別事情も大いに影響したことは間違いない。
かつてロックバンドのドラマーとしてプロデビューしたという前澤氏は、さながらロックスターのようにさまざまな話題を振りまいている。前澤氏はビジネスの世界でロックスターとして輝けるのか、トリックスターとしていつかは飽きられてしまうのか、今後も話題には事欠かなさそうだ。
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