前澤社長の「月旅行」批判する人に欠けた視点 「月に行くなら社員の給料を増やせ」は的外れ

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前澤氏は東証一部に上場する株式会社ZOZOの社長で筆頭株主でもあり、保有株の割合は37.94%に上る。執筆時点(2019年1月10日)のゾゾの時価総額(株数×株価)は約6800億円、前澤氏の持ち分は2500億円程度となる。それに対して法人としてのゾゾの総資産は700億円程度しかない(2018年9月第2四半期末時点)。

つまり会社の保有資産の合計額より、ゾゾの株を3分の1程度しか保有していない前澤氏個人の保有資産のほうが多いことになってしまう。

この差はいったいどのように考えればよいのだろうか? 実はこれが株の仕組みの面白いところであり、前澤氏が桁外れのお金持ちになった理由とも言える。そして、その仕組みにはゾゾの保有資産の少なさと、その一方で少ない資産で多額の利益を稼ぎ出していることが強く関係している。

ゾゾの高い利益率の源泉は?

時価総額と保有資産のズレは、株価の指標を見るとわかりやすい。株式投資をする際には、株価(時価総額)が利益の何倍か? 資産の何倍か? という指標がある。利益は税引き後の純利益を、資産は「純資産」と言って、保有する「総資産」から借金等の「負債」を差し引いて計算する。

そして純利益との比較を株価収益率=PER、純資産との比較を株価純資産倍率=PBRと呼ぶ。どちらも高いほど市場から高く評価されていることになる。株式投資に多少でも興味がある人にはおなじみの指標だ。

執筆時点の1月10日の終値ベースで見ると、ゾゾの株価は2184円、PERは23.96倍、PBRは39.05倍となっている(Yahoo!ファイナンス参照、PERは予想利益で計算されたもの)。これはゾゾの株が利益の24倍程度、純資産の39倍程度で買われていることを示している。高いのか安いのか、基準がないと判断のしようがないと思うが日経平均と比べてみたい。

日経平均株価は日経新聞社が選んだ日本を代表する大企業225社で構成される。そして日経平均を「ひとつの会社」とみなしてPERとPBRも計算されている。執筆時点では日経平均の予想PERが12.91倍、PBRは1.14倍だ(日経新聞社HPより)。

両者を比べるとゾゾのほうがPERは約1.8倍、PBRは約34倍も高い。株価が高い、つまり日経平均を構成する企業よりゾゾのほうが投資家から極めて高く評価されている。

とくに純資産で計算するPBRは日経平均との差が34倍と突出して高い。ゾゾのPBRの高さはほかの企業と比べても際立っており、これは日本国内の上場企業すべてで比較した場合でも、執筆時点で8位と際立った高さである(Yahoo!ファイナンス・高PBRランキングより)。

PBRは「株価純資産倍率」と説明したとおり、総資産ではなく純資産で計算する。前述の700億円は総資産で、負債を返した実質的な保有資産である純資産は2018年9月末で171億円と、仮に全額を投じても月旅行には到底足りない。

PERとPBRの数字を見ると、ゾゾは少ない資産で多額の利益を得ていることがわかる。これはIT企業特有の状況だ。

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