川重のデザイナー、アニメの新幹線を「設計」 鉄道のリアルを追求、映画『未来のミライ』
「それには2つの理由があります。ひとつは、監督のお子さんの好きな車両が中央線だったということ。あと東京駅って、ドーム部分もそうですが、とてもシンボリックだと思いませんか? 僕なんかは、終着駅でもあり、始まりの駅でもあるというところから、生と死とか、人生とか、何かいろいろなことを考えてしまう」
だが、駅のイメージは東京駅だけではないという。聞けば、細田監督は作品を作るに当たり、時にイメージハンティングをするそうなのである。実際の風景を忠実に絵に落とし込むためにロケハンをするというのは、わかる。そうではなく今回は脚本が出来た段階で、映画の設計図である絵コンテを描くために、イメージを膨らませ、風景を取り込みに行くのがイメージハンティングだったそうだ。
今回、細田監督から急にもらったオーダーは「駅と庭を見に行きたい」であった。
「誰も知らないような無人駅を見に行くんですか」と聞いたところ、返ってきた返事はこうだった。「いや、フランスとイギリスの駅と庭を見に行きたい」
オルセー美術館は未来の東京駅?
そこでパリとロンドンに向かい、さまざまな駅を巡るが、ここはという決定打はなかった。その中で、細田監督がある種の確信を持って訪ねた場所があった。それはオルセー美術館。ヨーロッパの印象派の絵画をずらりと並べた圧巻の美術館。もともとは鉄道駅だったが、美術館として再生された。
「僕は新しい駅舎にはない歴史ある建築としての魅力を感じました。現代性と普遍性、新しさと過去が混在している雰囲気が求めているものにぴったりなんじゃないかと思った。その上、19世紀の絵画を収蔵している美術館ということもあって、時間の連なりも感じたし、『未来のミライ』で描く時空を超えた場所としてイメージにも合っていると思いました」
未来の東京駅に入っているに違いない、パリはオルセー美術館のエッセンスを探してみるのも楽しいのではないだろうか。
鉄道と電車というテーマに絞って『未来のミライ』を語っていただいたにもかかわらず、あっという間に時間が経ってしまった。もちろんこの映画は鉄道映画ではない。くんちゃんの成長を描きながら、当たり前の日常にある喜びや驚き、そこから生まれる奇跡を描いている映画なのである。とはいえ主人公が現実と異世界を行き来する中で、本物と本物に裏打ちされたファンタジーの鉄道が両方とも濃厚に味わえる点では希有な映画なのではないだろうか。
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