川重のデザイナー、アニメの新幹線を「設計」 鉄道のリアルを追求、映画『未来のミライ』
子どもの目線にずっとこだわり続けてきた『未来のミライ』プロデューサーならではの視点である。
「本物」にしたいという気持ちはファンタジーの極みのような未来の東京駅、未来の新幹線にも表れている、という。「だからこそ本物の電車を描きたかった。本当に電車を作っているかたにデザインもしていただきたかったんです。映画に登場する新幹線のデザインは川崎重工業さんに参加してもらっています。ほかにも、未来の東京駅のアナウンスは実際にJRの自動アナウンスをされている田中一永さんにお願いしましたし、架空の磯子駅の看板の字体も“国鉄フォント”を使ったんです」
まず細田監督は、「新幹線って誰がデザインしているのだろう?」と言い出したそうだ。
「子どもも大人もみんなが憧れる、あんなにカッコよい乗り物をいったい誰がデザインしているんだろう?」
そんな疑問に、監督や齋藤氏たちは「例えば、AIが空気抵抗や摩擦抵抗、またトンネル突入時の騒音を最小にするといった逆算からデザインをしているんじゃないか?」などと仮説を立ててみた。
本物の新幹線デザイナーを訪ねた
本当のところはどうなのだろう。「本物」を目指す一行は神戸市内にある川崎重工業の車両工場を訪ねた。実際の新幹線を作っている現場の人に会うために。
そこで運命の出会いがある。同社・車両カンパニーのデザイン課に所属する亀田芳高氏だ。まずは亀田氏に新幹線のデザインについて疑問をぶつけてみた。すると、齋藤氏たちの想像とはまったく違う答えが返ってきた。
「僕たちも皆さんと同じで鉛筆と紙のスケッチから始めるんです」
当時の驚きを齋藤氏はこう振り返る。「ビックリしましたよ。でも亀田さんと話せば話すほど、僕らと同じだって思ったんです。亀田さんは最高のエンジニアである前に、絵描きでもあり、物を生み出すクリエーティビティーにあふれた人なんです。亀田さんのパーソナリティーとイマジネーション、そして技術とが融合して新幹線が作られるなら、それは映画と一緒じゃないかと、ひとり心の中で感動していたんですね」
齋藤氏は笑いながら、一瞬の間を置く。
「横で同じように感動していた細田さんがいきなり『ぜひ、映画に出てくる新幹線のデザインをやってください!』って発注を始めちゃったんです(笑)。取材に来ていたはずが、いきなりの発注ですから、僕も川崎重工業さんもみんなビックリしちゃって。でも本当にグッドアイデアだったな」と思い出す。
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