「1人あたり」が低すぎる日本を再興する秘策 最低賃金を放置したままでは浮上しない

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今後、日本は人口減少が進む。その減少幅は主要7カ国(G7)の中で最も大きく、生産性を上げなければGDP総額は縮小し、日本経済は地盤沈下を起こす。「日本でGDPを減らすのは自殺行為」とアトキンソン氏は警鐘を鳴らす。GDPの減少と高齢化率上昇が重なれば、現在の社会保障制度の維持に支障を来す可能性があるからだ。

では、生産性の向上には何が必要なのか。アトキンソン氏は「最低賃金の継続的な引き上げが重要」と言う。それは最低賃金で働く人たちの収入が増えるだけでなく、波及効果も大きいとみているからだ。

最低賃金の継続的な引き上げで、現行の賃金水準が最低賃金を下回る人が出てくると、その人たちの賃金も自動的に上がる。最低賃金に近い水準で働く人たちの中には、よりよい賃金を求めて転職を考える人も出てくる。人手不足の中、企業は人材を引き留めるために賃金を上げざるをえない。

最低賃金の引き上げで生産性向上を強制

メリットはほかにもある。生産性の低い企業に変化を迫れることだ。日本の生産性が低い理由の1つに、中小企業の多さが挙げられる。規模の小さな企業の割合が高い国は、生産性の低い傾向がある。こうした企業は、最低賃金を基準に賃金を決めていることが多い。最低賃金が上がると利益が圧迫されるため、企業は生産性を高める努力が必要になる。

中小企業の生産性向上に有効なのが、合併による規模の拡大だ。企業規模と生産性には強い相関のあることが世界各国での分析でわかっている。合併が進めば、過当競争が緩和され、事業の安定性が増し、生産性を追求しやすくなる。

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生産性を向上させる方法はもう1つある。安売りをやめることだ。価格を下げれば新しい需要が生まれ、値下げによるマイナス分を上回る売り上げや利益が得られるというのは、人口増加時代のセオリーだ。人口減少時代に求められるのは、自社の商品を欲しがり、値段が高くても買ってくれる消費者に照準を合わせたビジネスだ。発想の転換を進め、新しい知識や技術を取り入れていくためには、経営者の教育や労働者のスキルアップも欠かせない。

アトキンソン氏の試算では、現在のGDPを2060年まで維持するには、生産性を年平均1.29%上げる必要がある。日本の生産性は1990~2015年で年平均0.77%の向上にとどまるが、米国と比べて、どの産業も生産性の改善余地は大きい。

人口減少と高齢化の悪影響をはね返して日本を再興する道はある。まず必要なのは、これまでの常識からの脱却だ。

『週刊東洋経済』1月19日号(1月15日発売)の特集は「日本の生存戦略」です。
中島 順一郎 東洋経済 記者

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なかしま じゅんいちろう / Junichiro Nakashima

1981年鹿児島県生まれ。2005年、早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、東洋経済新報社入社。ガラス・セメント、エレクトロニクス、放送などの業界を担当。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、ニュース編集部などを経て、2020年10月より『東洋経済オンライン』編集部に所属

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