中国が年始からチラ見せた「台湾攻撃」の意図 戦争を仕掛けるならアメリカより台湾だ

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台湾を軍事的に掌握するのは簡単なことではない。中国軍が110マイル(180キロ)の台湾海峡を渡ろうとすれば、高性能な台湾のミサイル、機雷、潜水艦、空爆に直面することになる。人口が密集した台湾の都市部や深い森林に覆われた山岳部は、ゲリラ部隊のパラダイスと化すだろう。何万人もの犠牲者を出す可能性のある台湾侵攻の失敗は、国際的な屈辱となるばかりでなく、習国家主席の国内政治における失脚のきっかけともなりうる。

台湾にしてみれば明らかに、容易な標的にはならないことを中国に知らしめたいと望んでいる。台湾政府の今年の防衛費は前年比6%増の110億ドルである。その多くは最新鋭のアメリカ製や台湾製の装備に費やされるだろう。1月2日に台湾政府は最新の台湾産対艦ミサイルを公表した。いかなる中国の侵攻部隊にも深刻な被害を及ぼす能力を持つものだ。

中国が目指しているのは月ではない

アメリカ政府にしても中国政府にしても、現在の「軍事的示威行為」は、まだ台湾海峡に限られているようにみえる。昨年、アメリカ海軍は台湾海峡に何隻かの船舶を派遣し、米太平洋艦隊は声明で、この行為を自由で開かれたインド太平洋に向けてのアメリカによる貢献を示す行為だと説明した。

1996年、アメリカのビル・クリントン大統領は中国との危機において同じルートに、戦力としてはより強力な2隻の米航空母艦を派遣している。アメリカはこれと似た行動を再びとるべきだとの声もあるが、これは中国政府を激怒させるだろう。中国航空母艦は自らの軍事力を誇示するためにこの水路を通っている一方で、米母艦はもう10年以上も航行していないのである。

中国は月に行ったかもしれないが、習国家主席の演説は、中国の領土拡大の最大の野望は自国のすぐそばにあることを示した。中国政府が今すぐに台湾を攻撃するのではなくとも、やがては全面戦争が起こり得るリスクを習国家主席の弁舌が物語る。大国同士の紛争リスクが年々上昇するようにみえる世界においては、台湾を支配しようとする中国の野望がいつか口火となるかも知れない。

著者のピーター・アップス氏はロイターのグローバル問題のコラムニスト。このコラムは同氏個人の見解に基づいている。
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