ダイソンが「給料の出る」大学をつくった事情 平均年齢26歳、凄腕技術者育てる「虎の穴」
ヴェロニカさんはスコットランドのエディンバラ工科大学でデザイン関連の修士号を取得し、2回目の転職で2016年にダイソンへ入社した。すでに決まっていた「エアラップ」の開発プロジェクトに立ち上げ当初から関わり、開発中はシンガポールの研究開発拠点へ赴任し、最終エンジニアリングデザインに携わった。製品の開発が終了した現在は、イギリスで同製品の性能に関わるデータ解析のリーダーを任されているという。
大きな責任が伴うポジションだが、つらくはないのか。ヴェロニカさんいわく、「挑戦をさせてもらえる一方で、それで疲れ果てるようなこともなく、とてもバランスが取れている」と余裕の表情。今後、結婚などの環境変化があっても「当然、このまま仕事をしたい」という。
ヴェロニカさんがダイソンのエンジニアの模範的存在であることは確かだが、かといって特異な存在ではなさそうだ。同じエアラップの発表会で参加者向け説明を担当したサム・バロース氏も2014年にダイソンに入社し、現在20代後半だが、2016年に発売されたドライヤーの開発中心メンバーとして活躍した実績を持つ。最新のコードレス型掃除機の開発に携わったサム・ツイスト氏も、2014年の入社後から、掃除機の性能の核となるモーター開発の中心となってきた。
ダイソン氏の強いこだわり
11月初旬に記者がシンガポールの研究開発拠点を訪れた際も、ラボに詰める顔触れは若々しい。同拠点で、エアラップの開発の一環で毛髪科学を研究してきた男性エンジニアに至っては、新卒でダイソン入社して10カ月目にすぎなかった(2018年11月時点)。イギリス本社の研究開発チームと連動して動き、同製品のために合計1800キロメートル分の毛髪を調査、その髪質やクセを解明するという、地道な活動を行ってきた。
若手エンジニアがこうも活躍している背景には、創業者であり、現在も全製品を世に送り出す最終判断を行っている、チーフ・エンジニアのジェイムズ・ダイソン氏の強いこだわりがある。
2018年に記者のインタビューに答えたダイソン氏は「人間は、若いほど創造性が豊かだ。たとえば学生と接していると、『そう来たか』とうなるような斬新な発想がたくさん出てくる。だからダイソンは、あえて(大学院卒や中途ではなく)新卒の学生を中心に採用している」と語る。一方で、「私は専門家が嫌いだ。何かを一からインプットする、まったく新しいアイデアを考えるといった柔軟性がないからだ」と手厳しい。
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