そもそも、人はかないもしないのに、こうなりたいと思う高い望みを持ってしまいがちなところもある。自分が変われるという過大な希望を持ちがちな性向をトロント大学の心理学者はFalse hope syndrome(偽りの希望症候群)と名付けた。「自分が変わろう」と決意したときに人は高揚感を感じ、ポジティブな気分に包まれる。だから、人は守りもできない「抱負」や「目標」というものをついつい、掲げたがる。しかし、それが多くの場合は、かなわず、大きな落胆に代わってしまう。結局、人生は「よし、変わろう」「やっぱり駄目だった」の繰り返しになりやすいということだ。
30歳を過ぎたら変わりにくい?
人というのは実際、変わりにくいものらしい。「30歳を過ぎたら、人の性格は石膏のように固まり、変えることはできない」とはアメリカの高名な心理学者・哲学者のウィリアム・ジェームズの言葉だ。多くの研究で、子ども時代から20代までは人間の性格は大きく変化するが、30代以降はあまり変化しないことが指摘されている。つまり基本となる性格・パーソナリティは30代までにおおむね形成されるということになる。
ただ、まったく変わらないかというと、そういうわけでもない。衝撃的な経験や身体的な変化、たとえば、子どもが生まれる、大病をする、大きなストレスにさらされる、更年期などを経験することによって、変わる場合もある。
年を経るごとに少しずつ変わっていく側面もある。人の性格を類型化する手法はさまざまあるが、海外の研究などで最も一般的に使われ、信頼される理論が「Big 5」というものだ。人の性格を以下の5つの特性で表すことができる。
不安や緊張、否定的感情の強さ。
2. Extraversion(外向性)
社交性や積極性など、自分の関心を外に向けられるかどうか。
3. Openness to Experience(経験への開放性、知性)
新しいものに興味や好奇心を持ったり、チャレンジしていくかどうか。
4. Agreeableness(調和性、協調性)
利他性や共感性。相手と協調していくことができるかどうか。
5. Conscientiousness(勤勉性、誠実性、まじめさ)
責任感や計画性、忍耐力などきちんと目標を立てて、それを達成しようとするかどうか。
多くは遺伝的な要素が強いが、年齢によって、これらの特性も変化する。このBig 5の経年変化を分析した調査では、人に対するやさしさ、共感性である「調和性・協調性」と「勤勉性」は、年を取るほど、上がっていくとされている。また、「神経症傾向」、新しいものへの興味などの「開放性」、「外向性」はやや減少するとされており、人は年とともに円熟していくと考えられている。
2017年1月にイギリス・ケンブリッジ大学の脳科学者たちが発表した脳の分析調査でも、「年を取るほど脳の前頭皮質が薄くなり、よりしわになることなどから、気が長くなり、穏やかになる」と、結論づけられた。彼らの言葉を借りれば、「人間は年を取るほど、神経質ではなくなり、感情をコントロールしやすくなる。同時に、誠実さと協調性が増し、責任感が高まり、より敵対的でなくなる」のだそうだ。まさにBig 5の経年変化が脳科学でも裏付けられたということになる。
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