外国人が失望する「日本」という職場の不条理 単純労働にも道を開く事実上の移民解禁へ

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それにもかかわらず彼らが声を上げづらい背景には、2つの構造的な問題がある。1つは母国の送り出し機関から多額の渡航前費用を徴収されていることだ。実習生は民間ブローカーである送り出し機関に紹介・書類作成代行手数料や日本語講習料を支払う。表向き禁止されているはずの保証金や違約金契約の締結も求められ、借金の総額は100万円を超えることも一般的だ。

権利を主張すると「強制帰国」させられることも

技能実習生が権利を主張すると、受け入れ企業や監理団体によって本人の意思に反して期間途中で「強制帰国」させられることもある。母国の賃金水準ではとうてい返済不可能な借金が残るので、技能実習生はこれを最も恐れている。

もう1つは技能移転による国際貢献という建前のため、技能実習生には原則、職場変更の自由がないことだ。理不尽な職場なら辞めて別の仕事を探すという、労働者には当然の権利が彼らにはない。

「日本は経済の発展したすばらしい国だと思っていたのに、今は失望感でいっぱいだ」。中国から技能実習生として来日した黄世護さん(26)は、保護されているシェルター内で、うつむき加減にそう話し始めた。黄さんは本国で日本語学校に通って学ぶ中で、日本の技能実習制度の存在を知った。日本語を学べ、お金も稼げると聞き来日した。本国の送り出し機関に支払った費用は約50万円。自らの収入1年半分に相当する額を、友人から借金してかき集めた。

来日から半年過ぎた2016年夏、黄さんは実習先の段ボール工場での作業中、大型加工機に右手を挟まれ、3本の指を損傷した。2カ月間の入院生活で皮膚移植など手術を8回も繰り返したが、結局右手が元のように動くようにはならなかった。

段ボール工場の作業中に3本の指を損傷した黄世護さん(記者撮影)

退院後、日本側の受け入れ機関(監理団体)である協同組合が黄さんに求めたのは、「確認書」への署名だった。雇用契約は終了し、治療終了後は速やかに帰国することなど、労災保険給付以外は一切の補償を求めないという内容だ。「言うとおりにしないと犯罪になるなどと脅され、無理矢理サインさせられそうになった」と、黄さんは振り返る。

技能実習生は2017年までの8年間で174人が死亡している。業務上の事故だけでなく、過労死が疑われるケースもあるという。こうした実態を踏まえ、「特定技能」では、技能に類似性があれば転職の自由も認められ、報酬は日本人と同等以上と定められている。熟練した技能を持つ「特定技能2号」となれば、配偶者や子の帯同、永住も可能となり、事実上の移民となりうる。

この新たな就労資格の創設は移民社会への道を開く重い決定だが、国会審議で安倍晋三首相は「移民政策を取ることは考えていない」と繰り返し述べるなど、あくまで目下の人手不足対策というスタンスだ。ただ、外国人労働者の受け入れで先を行くアジア各国でも単純労働者の永住は認めていない。日本はそれだけ大きな方向転換をしたということを認識しておく必要がある。

『週刊東洋経済』1月12日号(1月7日発売)の特集は「“移民”解禁」です。
風間 直樹 東洋経済コラムニスト

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。2014年8月から2017年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、2019年10月から調査報道部長、2022年4月から24年7月まで『週刊東洋経済』編集長。著書に『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』(2022年)、『雇用融解』(2007年)、『融解連鎖』(2010年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(2013年)など。

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