個人宅配、1件3分半で荷物を届ける「激務」 ドライバーに負担を強いるのはもう限界

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1日の仕事は、まず協力会社から、元請事業者のデポに行く。この所要時間が恵まれた条件で15分とすると往復で1日30分。デポが狭いと、積み込み作業のできる台数が限られるので、作業開始までの待機時間が発生するが、ここでは待機時間はないことにする。

デポにはネット通販会社から方面別に仕分けされた荷物が持ち込まれ、ドライバーは自分が担当する配送コースの荷物をピックアップして積み込む。この積み込み作業に30分から1時間はかかるという。最短の30分としても、第1便(朝)、第2便(午後早い時間)、第3便(午後遅い時間)の3回の積み込みがあるので、1時間30分になる。次にデポから自分の配送コースまでの移動時間が必要だが、これも最短で15分と仮定しても往復30分で、1日3回配送なら1時間30分になる。ここまでの合計が3時間30分だ。

原則的に、トラックドライバーの1日の最大拘束時間は13時間なので、残りは9時間30分。うち最低1時間の休憩が定められているので、8時間30分(510分)で配達しなければならない。配達完了個数は140個だが、持ち出し個数が150個なので、10個の不在持ち帰りがあり、訪問件数は150件となる。それでも、再配達や再々配達で配達完了した訪問回数は含めていないので、実際の件数は150件より多いはずである。

1日8時間30分で、「150件」の訪問とすると、1件あたりの所要時間は「3分24秒」しかない。

車を止めて荷物を出し、玄関までを30秒とし、インターホンを押して荷物の受取人が出てくるまで30秒。荷物を渡し、サインをもらって、ドアを閉めるまでに30秒。玄関から車に戻り、発車するまでが30秒。ここまで2分だ。次の配達先までの移動時間を1分24秒とすれば、何とか3分24秒で収まる計算にはなる。

今後は個人事業主でも労働関連法令が適用される

だが、それだけの所要時間で、配達が可能だろうか。ある宅配便ドライバーによると、1棟内に何件も配達先があるオフィス街なら、「条件がよければ5分で3個配達できることもある」という。ただこれは、BtoB(企業対企業)の荷物が主体だ。BtoC(企業対個人)の荷物は、ほとんどが1件1個であり、配達先の間隔も離れている一般住宅街では、そんな効率的にはいかない。

従来は社員ドライバーでは労働時間が守れないゆえ、個人事業主の貨物軽自動車運送事業者に委託していたのだが、法的にもそれができなくなってきた。国交省が2018年4月20日に「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」を出したためだ。そのため個人事業主にも改善基準告示などが適用されることになった。国交省が個人事業主でも労働関連法令が適用されることを文書化したのは初めてだ。

さらには続く12月、「改正貨物自動車運送事業法」が国会で成立した。その中で荷主の配慮義務が新設され、荷主勧告制度も強化された(元請事業者も荷主と規定)。この荷主勧告制度の対象として、貨物軽自動車運送事業者が追加されている。推測になるが、これら一連の法的措置は、小売り市場における、流通チャネルの変化を視野に入れたものとみていい。

つまり、「労働時間の制約なし」が貨物軽自動車の個人事業主に委託する最大の”メリット”だったが、ついにはそこに法的規制がかかったというわけだ。現在、大手ネット通販会社では、自前の宅配ネットワークの構築を急いでいる。が、宅配便ドライバーの過重労働などの負担を、個人事業主である貨物軽自動車運送事業者に転嫁しただけのビジネスモデルでは、もう成り立たなくなってきたのだ。

森田 富士夫 物流ジャーナリスト

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もりた・ふじお / Fujio Morita

1949年生まれ。物流業界を専門に長年取材・執筆を行う。主な著書に『トラック運送企業の働き方改革〜人材と原資確保へのヒント〜』(白桃書房)。

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