個人宅配、1件3分半で荷物を届ける「激務」 ドライバーに負担を強いるのはもう限界
このへんが混同しやすいところだ。(1)なら給料、(2)の場合も最初は給料だが、(3)では業務委託料となるので、提示金額を給料総額と勘違いすると、一見、高給だと錯覚しやすいのである。
(3)では、業務を受託した個人事業主が、売上金から車両費や燃料費、保険、その他の諸経費を支払わなければならない。さらに年間売り上げが1000万円を超える際には、消費税も収めることになるが、契約会社からの個人事業主への支払いについて、消費税はいまだ”グレーゾーン”になっているようだ。もちろん、「個人事業主でも法人化していれば支払う」ケースもあるし、「法人化していなくても個人事業主への業務委託は消費税を支払う」ケースもある。
ともかく、貨物軽自動車の個人事業主を多数確保するため、最初は1日いくらの定額制(車建て運賃)で募集するのが一般的だ。宅配元請事業者の中には、1日3万円保証というケースもある。元請事業者と契約して宅配業務を請けている協力会社でも、首都圏ではドライバーへの定額支払いは、1日1万8000円から2万円が相場になっているという。
このように最初は定額保証で契約し、すでに個人事業主になっているドライバーには委託契約を、独立志望の人には独立を前提として、最初は社員として雇用、いずれ事業登録して個人事業主になることを推奨しているのである。
出来高制ゆえ、高額を得るには長時間労働
ではなぜ社員ドライバーではなく、個人事業主のドライバーに対する需要がこれほどあるのか。最大の理由は、社員ドライバーでは改善基準告示など、労働関連法令を順守しなければならないからだ。一方、個人事業主なら雇用関係ではなく委託契約なので、労働関連法令が適用外だった。「だった」と過去形にした理由は後述するが、とにかく、社員ドライバーでは労働時間などの法令順守が厳しい実態にあることを物語っている。
ある協力会社の経営者は「めちゃくちゃ働かせられるので、社員ドライバーでは労働時間が守れないため、個人事業主と委託契約して宅配をしてもらっている」と打ち明ける。
たとえば一般的なパターンはこうだ。最初の2カ月は定額保証とし、3カ月目からは「1日100個以上やってください」と1個200円の出来高制(個建て契約)にする。すると、定額よりも収入が増えるドライバーがいる反面、極端に収入が減少するドライバーも出てくる。出来高制なので、高額収入を得るには、長時間労働が必要になるのだ。
あるドライバーは月の売り上げが約70万円だった。この月は、デポ(配送拠点)から積んで出発した1日平均個数が約150個、1日平均の配達完了個数は約140個で、稼働日数は25日間。持ち出し数と配達完了数の差は不在持ち帰りであり、翌日の持ち出し個数にスライドしていく。
その反面、別のドライバーの1カ月の売り上げをみると、30万円にも満たない。30万円としても、車両費や燃料代その他の経費を差し引くと、自分の生活費としていくら残るのか。
委託契約期間は1年間が多い。売り上げの少ないドライバーは早く転職しようと考える。一方、元請事業者や協力会社も、取引先に個建て(出来高制)で請求している。だから1年契約でドライバーの新陳代謝を早めたくなる。その結果、配達能力の高いドライバーだけが残り、だんだん生産性が向上していくという仕組みである。
ここで月70万円の売り上げを実現するための労働時間を推計してみよう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら