FRB議長解任騒動でも、もはや上昇相場はない 市場の本音とリスクオフ相場の行方

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クリスマスショックにトランプ大統領も怒り心頭だが……(写真: REUTERS/Bryan R Smith)

アメリカ発の市場混乱が極まっている。

過去1週間を振り返ると、トランプ大統領との確執によるマティス国防長官の辞任が発表され、議会の「ねじれ」から「つなぎ予算」を可決できずに一部政府機関が閉鎖、そしてパウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長の解任観測騒動と矢継ぎ早に悪い材料がでたうえに、ムニューシン財務長官の対応のまずさから、米系金融機関に対する流動性懸念まで浮上した。

ニューヨークダウ平均株価はこの間に1600ドル以上も下げた。この下げ幅はリーマンショック後では最大である。米国の政治・経済にとっては文字どおり、満身創痍の年越しとなりそうであり、ムードが変わる手掛かりはつかめていない。

こうした中、為替も一時1ドル=110.27円までドル安円高が進んだ。現状の相場の荒れは今年経験したどの局面(2月や10月)よりも深刻であり、株価だけではなく原油、銅、ハイイールド債などの価格も明確に崩れている。これは正真正銘のリスクオフであり、円やスイスフランが買われるべき地合いと言える(実際にそうなっている)。この辺りは過去の寄稿『「リスクオフの円買い」はもうなくなったのか~「いつドル安円高に動くのか」の疑問に答える~』も参照してほしい。

トランプは単にFRBが「憎かった」だけ?

このように現時点で言及しなければならないトピックは多いが、やはり市場参加者が最も気にかけるべきはパウエル議長解任報道の行方であろう。先週21日のブルームバーグは、政権関係者の話として「トランプ大統領がパウエルFRB議長の解任を議論している」との事実を報じた。

今年7月以降、トランプ大統領のFRBに対する口先介入は断続的に行われているが、市場関係者の多くは「数あるトランプ節の1つ」くらいにしか見ていなかった。だが、10月以降の株価の動揺を見て、いよいよ堪忍袋の緒が切れたということなのだろうか。このままいけばNYダウ平均株価は3年ぶりに前年比下落で越年することになる。それはトランプ大統領にとって初めての経験ということにもなる。

株価が政権の通信簿であるかのように振る舞ってきたトランプ大統領の立場を踏まえれば、今回の騒動はそれほど不思議ではないとも言える一方、意外感も小さくない。というのも、これまでは利上げを批判しながらもFRBの独立性を尊重するような発言を心掛けていた。

おそらくその真意は「独立したFRBが判断した利上げにより景気が減速した」というロジックを担保するためであり、自身の保護主義へ批判が及ぶことへの保険なのだろうと思われた。つまり、遠くない将来に訪れるであろう景気減速の責任について、「FRBをスケープゴートにしたい」ということである。

しかし、本当に議長を解任したいというのであれば、そのような深謀遠慮はなく、ただ単に「憎い」のだろうか。真相は本人しかわからないが、政府と中央銀行の対立が、近年では例を見ないほどに深まっていることは間違いない。

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