FRB議長解任騒動でも、もはや上昇相場はない 市場の本音とリスクオフ相場の行方
現時点の報道によれば、大統領側近が「解任すれば惨状を招く」といさめているようだが、これに本人が応じる姿勢を見せているのかどうかは定かではない。とりあえず第1報の翌日となる22日、ムニューシン米財務長官は解任の検討を否定したとするトランプ大統領の発言をツイートしており、具体的にはトランプ大統領が「私はパウエル議長の解任を示唆したことはないし、そのような権限をもっているとも思わない」と述べたとしている。
とはいえ、振り返れば18日の利上げ前日、トランプ大統領は「いまだに利上げを検討していることが信じられない」と述べていたのに対し、パウエル議長は会見で「金融政策決定で政治的な考慮が働く余地はない」と一蹴した。政権内で対立した人間は漏れなく葬ってきたトランプ大統領のこれまでを振り返れば、解任に意欲を見せるのは自然な成り行きにも思える。
では、独立性が重んじられる中央銀行総裁に対し、制度上、そのようなことが可能なのかという点だが、連邦準備法10条(Federal Reserve Act:Section 10. Board of Governors of the Federal Reserve System)には「前任者の辞任から14年間を任期とする。正当な理由により大統領からそれよりも早く解任されないかぎり」との条文がある。これを読むかぎり、大統領による議長解任は可能であり、しかもその理由に規定はない(「正当な理由(cause)」があればよい)。
金融市場もトランプ大統領の主張を追認
なお、この「トランプ大統領 vs. FRB」の2項対立から汲み取るべき本質的な論点は「大統領にそのような権限があるのか否か」ではない。この騒動に絡んで指摘すべきは、金融市場にはトランプ大統領のFRB批判を黙認している風潮があるという点だ。
トランプ大統領がFRBの利上げ路線を批判した際、債券市場の反応は往々にして「利上げ路線の停止」の連想から「金利低下」となる。為替市場では円の買い戻しを後押しする流れとなっていることが多い。だが、仮に新興国でこれほど露骨に中央銀行への政治介入が行われれば、その国の国債や通貨は売られるはずだ。そうならないどころか真逆の動きになるということは、「トランプ大統領の政治的意思に沿って緩和が継続されたとしても、インフレが制御不能になるリスクはない」と考える市場参加者が多数ということではないのか。
言い換えれば、「FRBが利上げの大義としてきたインフレ予防など誰も信じていない」ということだ。これまで利上げに伴ってアメリカの金利が上昇してきた理由は、インフレ予防というFRBの主張に金融市場が賛同していたからではない。理由はもっと単純で、「FRBが上げると言うから付き合っただけ」というのが実情に近い。
FRBは市場への織り込みが十分進んでいるとの判断から気分よく利上げを進めてきたが、それは「鏡に映った自分」を追いかけているだけであり、かつてのブラインダー元FRB副議長の言葉を借りれば「自分の尻尾を追う犬」状態に陥っていたのだろう。トランプ大統領のFRB批判に話を戻せば、トランプ大統領は行動をもって自身の主張の正しさを実証したようにも思える(それが大統領にふさわしい行動なのかという問題は脇に置く)。
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