日本育ちのカメルーン人が漫画に込めた思い 見た目外人・心日本人の彼の唯一無二の視点

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幼稚園に入って3カ月後には日本語を話せるようになり、小学校へ上がる頃には流暢に話していた。しかし、彼は絵を描くことをやめなかった。描くことは、自分と日本人の子どもたちとの間に橋を架ける最初のツールだったからだ。描くことが彼を人気者にした。

「小学校ではいじめも少しありましたが、幼稚園から同じ小学校へ上がった友達がたくさんいたので、いじめられることはまれでした」

中学校では600人以上の生徒の中で彼だけが日本人でなかったため、とんでもなく失礼な態度をとる生徒たちも時にはいた。「僕は良い生徒でいたかったのですが、時々『お前は黒人だ! 日本人じゃない。あっちへ行け! 自分の国へ帰れ!』などと暴言を吐いてくる日本人生徒たちとけんかになったりもしました」とルネは振り返る。

「なぜ自分の肌の色だけ母と同じように黒いのだろう」

実の父親とは会ったことがなくその存在さえも知らなかったため、日本で日本人の父親の元で育ったルネは、自分はハーフ なのだと信じていた。しかし、2人の弟と3人の妹はみなハーフでルネとはかなり異なる外見をしていたため、疑問が沸いた。

「僕はよく『なぜ自分の肌の色だけが母と同じように暗褐色なのだろう? 自分の家族には何が起こったのだろう?』と思っていました。そこである日、8歳か9歳の時に、母のところへ行って『僕のお父さんは、弟たちや妹たちのお父さんとは違うの?』と尋ねました。すると母は『あらまあ! 今頃それに気づいたの?』と言いました。母は、僕が知らないということを知らなかったのです!」

カメルーンでは誰もが親戚を含む拡大家族のなかで暮らすため、父親のいない環境で育つ子どもは珍しくなかったのだとルネは説明してくれた。両親と暮らさずに、叔父叔母や祖父母たちなど他の家族と暮らす子どもが多くいるのだという。

「日本人はよく僕に、カメルーンと日本のどちらが祖国なのかと聞いてきます。僕はいつも両方とも祖国なのだと答えます。両方の国を両親のように捉えています。両親を同時に愛することはできますよね。カメルーンと日本についても同じことです。僕は両方の国を同じように愛しています」

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