トランプ大統領とブッシュ家の対立とは何だったのか。実は、ブッシュ・ジュニア元大統領は、トランプ大統領の姉のマリアン・トランプ連邦高等裁判所判事を米国最高裁判所判事に指名せず、彼女の同僚を指名したことがあった。2006年のことだ。姉思いのトランプ大統領にとっては、いささか苦い思いがあり、以来、両者の関係が良いとは言いがたい。
さらに2015年10月18日付のフォックス・ニュースでは、当時、共和党大統領候補指名レースのトップを走っていたトランプ大統領は、「あの9.11の同時多発テロの時、自分が大統領であったなら、未然にその事件を防げた」と発言。トランプ大統領自身の厳しい移民政策の正当性を主張したのだが、この発言がブッシュ家を激怒させたことは言うまでもない。
ただ、トランプ大統領なりに、歩み寄りの姿勢は見せてきていた。ブッシュ政権時代から、最高裁判事の数の構成を共和党優位になるように努めてきたが、その努力はトランプ政権になっても維持されている。今回のブレット・カバノー最高裁判事の就任に伴う共和党優位の確保は、長年、カバノー夫妻がブッシュ・ジュニア元大統領と昵懇(じっこん)の間柄であることに照らしてみると、ブッシュ・ジュニア元大統領とトランプ大統領による合わせ技と言えよう。
今回、ブッシュ・ジュニア元大統領の心を動かしたのは、G20におけるトランプ大統領の記者会見中止で示された、トランプ大統領のパパ・ブッシュ元大統領に対する心からの尊敬の念だった、と言って間違いない。
パパ・ブッシュ元大統領の温情が懸け橋となり、トランプ大統領が共和党エスタブリッシュメントのリーダー格であるブッシュ家と正式和解したことの意味は、非常に大きい。共和党穏健派のパパ・ブッシュ元大統領と共和党保守派のブッシュ・ジュニア元大統領の人脈と影響力は、広く共和党勢力の全体をカバーしているからだ。
「勝負師トランプ」の会心の人事がこれだ!
トランプ大統領にとって最大の頭痛の種である「ロシア疑惑」が、ここまで長引いてきたのは、民主党勢力のせいばかりではない。上院のエリート共和党政治家たちが、しばしば反トランプ的なスタンスをとってきたせいでもある。
つまり、この共和党上院との対立が今回雪どけしたことは、トランプ大統領にとって大きなプラスと言っていい。上院が大統領の指名人事に対する承認権を持つという、アメリカ政治の仕組みからすると、トランプ大統領は人事面でこれまで以上に、フリーハンドを保つことができることを意味する。
その兆候と思える人事がすでに動きだしている。ジョン・フランシス・ケリー大統領首席補佐官は、年末に向けて交代になる。いったいなぜか。2つ理由が考えられる。1つは、ケリー氏が「メキシコの壁」に関し、トランプ大統領の主張と当初から相いれないところがあったこと。
もう1つの理由として、マイク・ペンス副大統領の首席補佐官でトランプ大統領とも親しいニック・エアーズ氏が、ケリー大統領首席補佐官の後任として最有力視されていた。ところが、エアーズ氏はホワイトハウスから去ることになり、ホワイトハウスの外からトランプ大統領を支えることに決めた。
CNNニュースなどは、それみたことかとばかり、「人事に苦悩するトランプ」論を批判的に繰り広げている。ところがトランプ大統領は、ミック・マルバニー行政管理予算局長について、その地位を維持させたまま、新たに大統領首席補佐官代行として、あっという間にしかもスムーズに指名したのだ。
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