文在寅大統領は「不通外交」を改めないのか 国際社会で孤立なら、北朝鮮も相手にしない

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そして、最も「不通」状態が深刻なのは日韓関係である。

元徴用工に対する賠償を認めた大法院判決に続いて、韓国政府は元従軍慰安婦のための「和解・癒やし財団」を一方的に解散した。その結果、日韓関係はかつてないほど悪化している。

元徴用工問題の大法院判決に大統領は口を挟めないかもしれない。しかし財団の解散は政府の判断である。文大統領は政権発足時から解散を示唆し、慎重な対応を求める日本側の主張にまったく耳を傾けないばかりか、よりよき解決策を模索する動きもないまま、政権発足時の判断を実行した。

文政権の「不通外交」の背景には、韓国外交部の力の低下がしばしば指摘されている。各国の利害が複雑に絡み合う現在の外交を巧みに実践するには、首脳の決断力や行動力とともに、外交のプロ集団である外交部など官僚組織のバックアップは不可欠である。

ところが文政権では、主要政策を決定する青瓦台の政権中枢から康京和(カン・ギョンファ)長官をはじめとする外交部が外され、文大統領の周りは、「親北」「反米」の色彩が強い元運動家や研究者らで占められているといわれている。

「不通外交」は結果的に自らを傷つける

朴槿恵(パク・クネ)前政権など保守派の政権は米韓同盟を重視する外交を展開したが、進歩派の文政権はアメリカとの関係に距離を置き、南北関係はアメリカに頼らず自分たちが主導権を持って改善するべきであると考えている。その結果、アメリカや日本、欧州など主要国との関係や国連など国際社会を考慮しない自己中心的な外交を展開してしまう。これこそが「不通外交」である。

景気対策や社会保障問題などの内政問題であれば、為政者は予算や法律を作るなど自己完結的に対処できる。場合によっては国民の人気を得るためバラマキ政策を行うことも可能だ。しかし、外交問題になると相手がほかの国であり一筋縄ではいかない。各国が自国の利益を実現する目的で自分の都合や正当性、正義を貫き通そうとしても無理である。かといって問題を放置しておくわけにはいかず、解決しなければならない。そのため外交交渉で妥協や譲歩を積み重ねて合意に到達するのである。

二国間問題でもたいへんな労力が必要だが、北朝鮮の核・ミサイル問題のように関係する国が増えれば、解決の道筋は複雑になり外交の重要性がますます大きくなる。

ところが文政権の外交は自分たちの歴史観や正義を前面に掲げるだけで、外交をしているようには見えない。そういう姿勢が国内の反日感情やナショナリズムに乗っかっていれば、世論の受けはいいだろう。しかし、国際社会との関わりを忘れた自己中心的な「不通外交」が、結果的にその国を大きく傷つけることは歴史が証明している。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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