竜脚下目の中で、特大のブラキオサウルスは、前肢が後肢より長い特異な形態で描かれる。この小文では立ち入れないが、にわかに信じがたい異形である。哺乳類のキリンも、実物を見なければ信じがたいことを考えれば、異形を持って存在を疑うのは不当ではある。しかし、血圧、大量の食物の必要、その他もろもろの理由から、そもそもこの体型が正しいのか、各部の骨の同定に別解釈の余地はないのか、いくら慎重に検証してもしすぎることはあるまい。
恐竜の絶滅は白亜紀末、6550万年前である。地層年代の境界は、環境の激変を意味し、大絶滅を伴った。最大規模のペルム紀末には、全生物種の95%が絶滅した。白亜紀末では、70%程度と言われ、鳥類以外の恐竜全種が滅んだ。
その原因を隕石衝突と解き明かしたのは、ノーベル賞天文学者のルイスと地質学者ウォルターのアルバレス父子である。しかし、1980年に論文を発表してのち、理論どおりのクレーターの発見にも関わらず、古生物学界などから頑強な抵抗が続き、2010年の検証論文で異論が断たれるまで実に30年を要した。
この遅さは残念ではあるが、意外ではない。絶滅を自らの専管領域と考えた古生物学者にとって、門外漢の天文学者が突然現れ、恐竜絶滅を解明したことは、ムラの論理の心理上、まったく受け入れがたかったと容易に想像できる。学者の世代交代を待って事実が定着する例は、歴史に多く見られる。
鳥類と哺乳類が生き残った謎
恐竜絶滅は見事に解明されたが、むしろ問題は、なぜ鳥類が生き延びたかである。隕石衝突は、おそらく地球に数年程度の闇と冬をもたらした。深刻な寒冷と食料欠乏の中、一部に特別な適合性がある鳥類がいたのか、偶然食料のある洞窟に取り残されたものでもあったのか。
鳥類以上に、なぜ一部の哺乳類が生き延びたかも謎である。だが、いかなる理由であれ、隕石衝突で鳥以外の恐竜は滅び、一部の哺乳類は残った。その幸運が現在を生んでいる。大絶滅は、われわれには悪い話ではなかった。
今日の恐竜学は学際的な総合学に向かっている。竜脚下目は水中につかって暮らした、という荒唐無稽な説は、力学の知見を得て払拭された。絶滅の謎を解いたのは、天文学と地質学の連合であった。今日、動物生態学、発生学、遺伝子工学などの各分野の知見が融合して、絶滅動物の生態を解き明かしている。すばらしいことと思う。
以上駆け足で恐竜を一瞥した。鳥盤類にほとんど触れられず、石頭、トランペッター、鎧武者、などはすべて割愛し、最近の新説や数奇な運命の「恐るべき手」などにも立ち入れなかった。ご容赦賜りたい。
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